前回は運動麻痺の回復ステージ理論について、大まかにどのように脳卒中後に脳の変化が起こるのかという部分の説明をしました。
運動麻痺回復ステージ理論についてはこちら!
運動麻痺回復のステージ理論とは?運動麻痺回復の脳内メカニズムを徹底解説!リハアイデア
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その中で大事な要素として、運動麻痺には回復過程において時期に応じた脳の回復の機序が異なる部分があるということをお伝えしました。
今回はその回復過程において重要な発症から3カ月までの部分としての1st stage recoveryについて、もう少し詳しく脳内メカニズムの変化などについてお伝えしていきたいと思います。
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それではスタート!
目次
運動麻痺の回復ステージ理論について
まずは前回の復習として簡単に運動麻痺の回復ステージ理論についておさらいをしてみましょう。
運動麻痺の回復ステージ理論とは、Swayneら1)が報告している中枢神経再組織化におけるステージ理論として、脳卒中発症から6カ月間、経頭蓋磁気刺激TMSにて皮質脊髄路の興奮性の指標として、運動誘発電位MEPを測定することで運動麻痺の回復メカニズムを検証した理論になります。
詳しくはこちらの原著をご覧ください!
参考 Stages of Motor Output Reorganization after Hemispheric Stroke Suggested by Longitudinal Studies of Cortical Physiology運動麻痺の回復ステージ理論そして、その理論をよりわかりやすく、原寛美先生2)がまとめられたのがこちらになります。
上の図をみて頂いたらわかるように、運動麻痺における回復過程においては、発症時期からそれぞれ起こってくる脳の機能回復にはその機序が異なるということになります。
運動麻痺回復のステージ理論
- 1st stage recovery(発症~3カ月)
- 2nd stage recovery(発症~6カ月)
- 3rd stage recovery(6カ月~)
その中でも今回は急性期にあた、発症から3カ月の時期に生じる『残存している皮質脊髄路の興奮性』という部分にフォーカスをあてて、臨床場面での治療アイデアも含めてお伝えしていきたいと思います。
運動麻痺回復ステージ理論:1st stage recovery(発症~3カ月)
この時期はちょうど脳卒中発症における急性期の時期に当たります。
この頃の脳の活動の特徴としては、残存している(損傷を免れた)皮質脊髄路の程度に依拠しており、その残存している皮質脊髄路の興奮性をより高め、運動麻痺の回復を促す時期とされています。
つまり脳卒中発症初期の運動麻痺に対して(より重度になればなるほど)、残存した皮質脊髄路の興奮性を高め、いかに早期から随意性を引き出していくかが非常に重要になってきます。
臨床場面で考えていく部分としては、この時期に運動が積極的に促せないことによる筋の二次的な変化(廃用や萎縮など)を如何に出さないかということが重要になります。
そういった意味では、早期リハとしてもエビデンスが高い早期荷重、早期離床などは非常に重要な要素になってくると思いますし、ガイドラインにおいてもその重要性は様々な報告があります。
脳卒中ガイドラインに関する記事はこちら!
脳卒中ガイドラインに新情報!2017年度追補版とは?運動麻痺の回復を見る上で大事な皮質脊髄路の残存程度
そして、この時に大事になってくるのが、皮質脊髄路そのものがどの程度神経線維の残存があるかを知ることになります。
一般的には脳画像においても皮質脊髄路の損傷程度が、運動機能の予後予測に大きく関与するということは文献上でも報告3)されています。
参考 慢性脳卒中の運動障害を予測する皮質脊髄路の損傷程度Strokeまた近年様々研究の中で、テンソル画像を用いた中で、皮質脊髄路を抽出してその障害程度を把握するようなことも報告されていますが、実際の臨床ではテンソル画像をみれる施設は少なく、脳画像からそこを推測するのが大半だと思います。
そのため、まずは画像を通して皮質脊髄路の連続性がどの程度保たれているかは、しっかり把握しておく必要があります。
皮質脊髄路の経路に関して学びたい方はこちらをご覧ください!
皮質脊髄路(錐体路)を脳画像から簡単に見つける方法!運動麻痺を理解する5つの見るべきポイントとは?つまり、臨床場面ではどの部分(関節運動や筋活動)の運動が行え、動きに対してどういった筋の反応があるかを見極めていく必要があります。
その際に大事になってくるのが、皮質脊髄路がそもそ支配しているのが何かという点になります。
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つまり、残存している皮質脊髄路を把握するためには、運動課題に対してどの筋活動が起こっているかをみる触診力が非常に重要になってくるということになります。
しかし、実はここで注意しておいて欲しいことがあります。
脳卒中患者さんの場合で考えてほしいのですが、運動麻痺を呈した場合、残存している皮質脊髄路の興奮性をなんとか高めようと患者さん自身も動こうとされます。
つまり、動かくなくなった手足を、今までの運動感覚(手足が自由に動いていた状態)を基に動かそうとするのですが、結果的に動かない部分に対しては、なんとか他の部分を使って代償をしながら動作遂行をされようとします。
それによって生じるのが、大脳皮質の過活動としてみられる場合があります4)。
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実は、先ほど話した皮質脊髄路の残存程度を知ることが大事だといったのですが、この皮質脊髄路の損傷程度で、大脳皮質の過活動を引き起こす程度にも差があるということも報告されています。
つまり、1st stage recoveryの時期に考える要素としては、単に皮質脊髄路の興奮性をあげるということばかりに着目してはいけないということになります。
そのためには、損傷を受けた皮質脊髄路がどの程度障害を受けているのかを知り、その上でどういった運動を用いることが、残存している皮質脊髄路の興奮性を高められるのかという部分を、臨床場面ではしっかり見極めないといけません。
そのためには脳画像をみる力も必要になりますし、運動が起こるための脳内メカニズムがどのように働いているのかも、しっかり把握しておく必要があります。
急性期で考えるべき運動麻痺への重要な視点
そうはいっても、脳卒中発症後の運動麻痺をみた際に、患者さんによっては皮質脊髄路の障害が強く、運動麻痺がブルンストロームステージでもⅠ~Ⅱレベルで、関節運動すら起こせない、いわゆる弛緩性麻痺を呈する方々も沢山症例としては経験します。
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随意性を出し、関節運動を起こす要素の中には電気刺激療法やTMSなども併用していくことが重要になります。
そして、随意性が引き出せてきたら、徐々に反復収縮などを繰り返し、徐々に自動運動へと移行することが重要になっています。
しかし、こういった電気療法などの直接的な介入をするには、所属する施設の環境(電気療法が行える設備など)や、電気療法に関する知識や技術がない場合では中々適応させることができないケースも場合によっては起こってきます。
その際に重要なのが、特にこの早期からの皮質脊髄路の興奮性を引き出す要素として、何も随意性を出して運動を起こすことだけがアプローチの方法ではないということです。
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これらの要素には、荷重刺激に伴う6野である高次運動野を基盤とした姿勢制御に関わる皮質網様体路の関与や、感覚野である3野からの投射などの要素も複雑に絡み合い、結果的にその興奮性が皮質脊髄路の代償的な興奮性を高める要因になりえることも考えられます。
6野(運動前野)や3野(感覚野)に関する記事はこちら!
運動麻痺にも関わる運動前野の機能を徹底解説!運動前野を治療に活かすポイントとは?感覚障害に関わる一次体性感覚野の機能を徹底解説!!感覚障害を治療するときの大切なポイントとは?少なくとも、この時期の荷重刺激が場合によっては皮質脊髄路の興奮性を高める要因6)になったり(現在歩行場面などでは多く報告されています)、非損傷半球の過度な使用を防ぐことによる、左右の大脳間での半球間抑制のアンバランスを是正していくことにもつながる可能性があります。
運動麻痺回復ステージ理論:1st stage recovery(発症~3カ月)のまとめ
以上のことから1st stage recoveryにおける要点をまとめていくとこのようになってきます。
- 残存している皮質脊髄路の興奮性を高め、随意性を引き出すことが大事
- 皮質脊髄路の残存程度を把握する必要性がある(脳画像から)
- 随意運動としてみられる筋の収縮などを触診にて確認・評価する
- 皮質脊髄路の損傷程度によっては、大脳皮質の過活動を引き起こすため注意が必要
- この時期の間違った運動パターンの学習はのちの代償動作を引き起こすリスクがある
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次回は2nd stage recoveryについてまとめてみたいと思います。
引用・参考文献
1)Swayne OB ,et al:Stages of Motor Output Reorganization after Hemispheric Stroke Suggested by Longitudinal Studies of Cortical Physiology:Cereb Cortex 18:1909–1922,2008
2)原寛美:脳卒中運動麻痺回復可塑性理論とステージ理論に依拠したリハビリテーション.脳外誌 21(7):516-526,2012
3)Lin L,et al:Lesion Load of the Corticospinal Tract Predicts Motor Impairment in Chronic Stroke.stroke 41(5):910-915,2010
4)Grefkes C,et al:Cortical connectivity after subcortical stroke assessed with functional magnetic resonance imaging:Ann Neurol 2008 Feb;63(2):236-246.
5)Rehme AK,et al: Activation likelihood estimation meta-analysis of motor-related neural activity after stroke. Neuroimage 2012; 59: 2771–82.
6)Capaday C,et al:Studies on the corticospinal control of human walking. I. Responses to focal transcranial magnetic stimulation of the motor cortex.J Neurophysiol. 1999; 81(1): 129-39.
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