前回の記事では大脳基底核である5つの核の機能と、それらの結び付けについてまとめてみました!
大事なことは大脳基底核がそれぞれ機能を有しているというよりは、それぞれがどのように結び付くかで、ひとつの運動を作り出すための調整役を担っているということでした!
その中でも基底核の機能として重要な経路として直接路・間接路・ハイパー直接路について、それぞれの核がどうつながっているかの概要部分をお伝えしました。
前回の内容でかなり基底核の機能とそれぞれの核のつながりが把握することができました!
今回知ってほしいことはそれらの核の繋がりが実際の運動にどう関わっているかという部分です!
今回は実際に大脳基底核が運動にどのような関りがあるのか?そしてその際に各経路(直接路や間接路)が運動をどのように制御しているのかについてまとめていきたいと思います。
- 運動のどの場面で重要になるのかが理解できる
- それぞれの経路が運動をどう制御しているのかが理解できる
- 病態とのつながりを把握することができる
それでは、スタート!!
大脳基底核はブレーキもしくはアクセルの作用?
そもそも大脳基底核の経路を考える前に実は知っておいて欲しいことは、そもそも大脳基底核が運動の何に関わっているかということです。
確かに運動の調節とは聞きますが、実際に運動の何を調節しているかがわかりにくいですもんね!
随意運動に関わる皮質脊髄路の機能と脳画像はこちら!
どういうことかというと、大脳皮質で作られた運動情報の企画に対して、実際にそれをやるべきなのか、やらないべきなのか、やってしまったけど止めるべきなのか、続けるべきなのか、といった運動の開始・停止といった部分にこの大脳基底核が重要となってきます!
イメージしやすいようにすると、大脳基底核の病変として有名なパーキンソン病なんかはまさに、運動の開始・停止といった部分ですくみ足がでたり(運動の開始障害)、突進様現象がでたり(運動の停止障害)と様々な問題がでてきます。
確かにパーキンソン病の方って【運動麻痺】自体はないですもんね~!
つまり、重要なことは大脳基底核というものが運動に必要な筋活動に伴う関節運動を細かく調節しているというより、もっと大きな意味での運動の開始や停止といった要素に大きく関わっているということが理解できると思います。
運動に対する大枠としての【運動プログラム】に大きく関わる
では、具体的に大脳基底核は大脳皮質から降りてくる情報に対してどのようにそれらを調節しているのかというと、大脳基底核自体にはアクセルとしての機能はなくブレーキの機能(抑制)として大脳皮質からの情報を実際に運動に変換しています!
ブレーキというのはまさに抑制という考え方になります!
ブレーキの機能??
抑制ということは理解できるのですが、それだけだと運動を止めるだけで、運動を開始することと上手く結びつかなくて…
よく大脳基底核の機能を【ブレーキの作用】という部分から考えてみるとわかりやすいのですが、車の運転を思い出してください。
車って【パーキング:P】から【ドライブ:D】にいれるとアクセルを踏んでなくても勝手に進みませんか(特に渋滞中の車の運転を考えてみてください)?
その渋滞中の際に、前進するときはアクセルを踏むことは少なく、前にゆっくり進むためにはブレーキをゆるめるということで、前方に移動すると思いますが、まさに大脳基底核の機能もそういった役割になります。
ここから考えられることは、大脳基底核の機能にはアクセルはなくブレーキだということで、運動に対してのブレーキ(すなわち抑制)として作用し、必要に応じてそのブレーキを弱めること(脱抑制)で運動を引き起こすということがわかります。
つまり、大脳基底核の機能が向上するということはブレーキが強い状態で運動が抑制されているということになるのです(抑制強化)。
逆に大脳基底核の機能が低下するということはブレーキがかけれず不要な動きが出現する(不随意的要素)ということを表します。
大脳基底核の経路をダムの機能として考える
あとは、よく【ダムの機能】としても例えられるのですが、これも先ほどのブレーキの考え方と同じで、基本はダム=ブレーキ(抑制)になります。
大脳皮質から沢山おりてくる情報はまさに大雨が降った時の状態と同じです。
沢山降り注いだ雨がそのまま街に流れ出たら、洪水が起こって街は崩壊してしまいます。
そうならないためにもダム湖に水が蓄えられ、水が必要なところに必要な分だけ流す際にゲートを開いて水を流すのが本来のダムの役割です。
ここで大脳基底核の経路を合わせて考えていきたいのですが、そのゲートの役割を持っているのが、大脳基底核の3つの経路になります。
- ハイパー直接路
- 直接路
- 間接路
まさにダムの機能として、このゲートを開いて水を流すのが直接路で、ゲートを閉じて水を流さないのがハイパー直接路、間接路の機能になります。
つまりこれらをある課題における運動に置き換えると、課題に対して必要な運動をゲートを開いて流すことで、運動を発現させるためには直接路の機能が必要となり、逆に今その課題において必要ない動きはゲートを閉じて運動を起こさないというハイパー直接路、間接路の機能が必要となるのです。
直接路:基底核の機能を弱ることでブレーキを外す
ハイパー直接路・間接路:基底核の機能を強めることでブレーキを強める
なるほどです!大脳基底核がブレーキとしての抑制の機能を持つこと、そしてそれを経路を介して強めたり、弱めたりしていることが理解できました。
ひとつ気になったのですが、運動を起こさないハイパー直接路と間接路って何か違いがあるのですか?
良いところに気が付いたね~!
ここからは大脳基底核の核群の関りも合わせてみていきながら、経路のことをもうちょっと臨床的に考えてみてみよう!
大脳基底核経路の順序性
運動機能に関わる大脳基底核の経路には大きく3つの経路が関わってきます。
その際に重要なのがどの順番でこの経路が働くかということです。
まず初めに理解しておいて欲しいのが、大脳基底核の出力部である淡蒼球内節・黒質網様部は元々抑制系のニューロンで、これらは持続的に活動しているので、その投射先である視床や脳幹は常に抑制された状態であります。
これはまだ運動が起こってないときの脳の活動の話ですね!
つまり基底核が常に働いていて、視床や脳幹、大脳皮質に対して抑制をかけているということですね!
そこから大脳皮質で運動が企画されたあと、その情報は線条体に入る前に、ハイパー直接路を介して出力部(淡蒼球内節・黒質網様部)に投射し、視床の活動を抑制することで、運動を抑制します。
次いで、線条体から出力部に対して直接路が働くことで(ここから放出される神経伝達物質は抑制系であるGABA)、出力部(淡蒼球内節・黒質網様部)が抑制されることで、結果的に視床の活動が上がり、そこから大脳皮質が興奮し、運動が出現します。
そして最後に間接路が働くことで、出力部の抑制作用を強めることで、運動を停止させます。
このように3つの経路は時間的にも、空間的にも視床や脳幹、大脳皮質の活動を調整することによって、不必要な運動は抑制し、必要な運動だけをタイミングよく起こすことで、滑らかな運動を引き出すことに作用しているのです。
ハイパー直接路→直接路→間接路の順に働いている
では、次はそれぞれの経路をもっと細かく、大脳基底核の核群とどういった部分を繋げ、どういった情報のやり取りをし、実際の運動出力を決めているのかをさらに細かくみていこうと思います。
ハイパー直接路は、他の2つの経路と違い、入力部である線条体を経由しないのが最も大きな特徴です。
まず、大脳皮質から直接視床下核へ興奮性の伝達物質であるグルタミン酸を投射します。
3つの経路の中でも線条体を通らない分一番初めに反応するということです!
それによって基底核の中での抑制系の出力部(淡蒼球(内節)・黒質網様部)を亢進させます(抑制強化)。
その結果、基底核の出力が強まることでブレーキが強まり、投射先である視床や、その先にある大脳皮質の活動が抑制されることで、運動を抑制するのがハイパー直接路の機能です。
まずはハイパー直接路を介して抑制系を興奮させること(抑制強化)で運動自体をやらないということを行っています!
大脳皮質からの情報が線条体へ投射され、そこから直接路を介して出力部である淡蒼球(内節)・黒質網様部へ情報を送る経路です。
ここでまず理解しておいてほしいことは、まずは線条体を働かせる必要があり、そのためには黒質緻密部の活動が必要になります。
直接路が働くためには、先ず中脳にある黒質緻密部(基底核のひとつ)から線条体に対してドーパミンを介した情報入力によって、線条体の興奮性が高まります。
その際にドーパミンを受け取る線条体の受け取り口をD1受容体といいます。
線条体の興奮性が高まることで、次に出力部(淡蒼球(内節)・黒質網様部)に対して、GABAという抑制性伝達物質を送ることで、抑制系に対して抑制を図る(脱抑制)ことで、結果的に基底核の活動は低下(ブレーキが外れる)します。
それにより、投射先である視床や、その先にある大脳皮質が興奮することで、必要な運動が引き起こされるのが基底核の直接路の機能になります。
つまりまとめると、直接路を介して大脳基底核の働きが抑制され(脱抑制)、運動が行われるということになります。
間接路は、大脳皮質からの情報が線条体へ投射され、淡蒼球外節から視床下核を順に経由することで出力部である淡蒼球(内節)・黒質網様部へ情報を送る経路です。
直接路と同様に先ずは、黒質緻密部から線条体に対して神経伝達物質が投射されることで、線条体の活動を調整します。
ここで注意してほしいのが、直接路はドーパミンによる興奮性の神経伝達物質によって活動を示し、それに対して間接路はGABAによる抑制系の神経伝達物質がD2受容体に作用することで活動を示します。
線条体から次に淡蒼球外節へ抑制性のGABAが投射され、そこから視床下核に対してそのまま抑制性のGABAが投射されていきます。
視床下核から出る神経伝達物質はグルタミン酸作動系でこれらは基底核の最終的な出力部(淡蒼球(内節)・黒質網様部)に対して反応を示すため、出力部の抑制作用(ブレーキ作用)が強化されることで、結果的に基底核の活動は亢進(ブレーキが強まる)します。
そのため間接路が働くと、視床・大脳皮質の活動を抑えるため、運動自体をストップさせることが重要な機能となります。
つまりまとめると、間接路を介して大脳基底核の働きが亢進され(抑制強化)、運動がストップするということになります。
間接路に大きく関わる被殻や淡蒼球(レンズ核)の脳画像についてはこちら
大脳基底核3つの経路による運動調整
以上をまとめると、大脳基底核における3つの経路では、
運動を一番初めに抑制する
必要な運動を選択的に引き起こす
運動自体をストップさせる
といった、3つの経路を介してコントロールされているということがわかります。
最終的な出力核としての淡蒼球内節・黒質網様部の抑制系を強めることでブレーキを強くする(抑制強化)のか、弱めることでブレーキを外す(脱抑制)かで運動をやる・やらないといったことを決める
その際に、この基底核の部分で混乱しやすいのが神経伝達物質のことに関する部分になります。
駅のゲートを通過するにはICOCAやSuicaなどのカードが必要になるよね?まさに神経伝達物質がそのゲートを開くためのカードの役割になるってことだよ!
大事なことは抑制系のゲートを開くためのカードは基本は抑制性のGABA作動性がメインで働くことで、運動自体に対してブレーキをかけているということが重要になります。
- 視床下核:グルタミン作動性
- 黒質緻密部:ドーパミン作動性
- それ以外:GABA作動性(抑制)
大脳基底核の一連の経路や神経伝達物質による調節作用には、運動に対しての大
脳皮質からくる不必要な運動プログラムの発現を抑制すると共に,必要な運動プログラムを正確なタイミングで遂行するために有用であると考えられています。
つまり、これらの運動に必要な調整に問題が生じるのが基底核の障害を主としたパーキンソン病や、ハンチントン舞踏病などになりますが、大脳基底核として重要な被殻(脳出血に多い)の障害によっても、これら運動調節に大きく関与しているということを理解しておくことが非常に重要になります。
では、それらをどう見わけていくのかという部分については、脳画像や身体所見と経路のマッチングをしていくことが臨床推論を進めていく上での一つの重要な材料となってくるのです!
ここで初めて大脳基底核の機能と病態とが一致する最初のステップが終わったということですね!
ここが理解できていないと、【基底核=運動プログラムの問題】という部分に繋がりにくいからね!
そしてこういった知識が目の前の現象に対する解釈するためのひとつのツールになるかが重要なポイントになるからね!
大脳基底核病変における機能と経路との関係性についてはこちら!
【有料】基底核病変に対する臨床推論とは?運動の問題を3つの経路から考える!前回の大脳基底核の5つの機能と合わせて理解しておくことを是非オススメ致します!
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