脳機能を学ぶ上でかかせないのが、大脳皮質や基底核、視床や脳幹などのそれぞれの脳部位がどういった機能を持っているかを把握することですが、それと合わせて重要になってくるのが、その脳と身体を繋ぐ脊髄の機能です。
脊髄って学生の頃には生理学で習った気がするんですが、いまいちその機能や役割を臨床の中で考えられなくて…
わかるわかる!伸張反射とかα-γ連関とか色々習うもんね~!
でもそれがヒトの動きにどう関わるのかって実際に目に見えにくいからわかりにくいもんね~。
運動という側面から見た際に、脊髄には大きく2つの神経細胞があり、さらにそれらは脳からの指令によって、
- どういったときに
- どういった細胞が
- どのような機序で
働くのかを理解することが重要になってきます。
今回の記事では脊髄に存在する2つの神経細胞(運動に関わる)について、ざっくり簡単にまとめていきたいと思います。
- 脊髄の機能が理解できる
- 脊髄の中にある運動に関わる神経細胞の違いが理解できる
- 脊髄の働きを臨床に活かせる考え方が学べる
それではスタート!
脊髄は運動の何に関わっているの?
まずは脊髄の役割について考えていきたいのですが、そもそも脊髄とは、
脳から延長した円柱状の神経の束で、脳と合わせて中枢神経系として呼ばれ、神経細胞で構成される白質が、神経核(神経細胞の集まり)の灰白質を囲む構造になっている。
とされています!
そしてこの脊髄は脳からの指令を受けたり、末梢器官である身体の筋肉や皮膚などから情報を受けたり、また情報を送ったりする、脳と身体を繋ぐハブの役割をしています。
よくいう脊髄損傷ではこのハブの機能が働かず、脳からの指令が出ているにも関わらず、その情報が身体に伝わらない、もしくは身体からの情報が脳に伝わらない状態になります。
- 運動麻痺:脳からの指令が筋肉に伝わらないアウトプットの問題
- 感覚障害:身体からの情報が脳に伝わらないインプットの問題
そう考えると脊髄は脳と身体を繋ぐということなので、脳が働かないと脊髄は機能しないということでしょうか?
おっ、良いところに気が付いたね!実は脊髄は脳がなくても働くことがあるんだよ!
脊髄機能で重要な反射メカニズムとは?
それが反射といわれるもので、脳を介さない現象として、身体(筋や皮膚)に刺激が入った際に、その情報が脊髄へ伝わり、そこから脳へ情報を起こさずに、身体にそのまま情報を送ることができるのがこの反射の要素です。
反射機構で重要な伸張反射についてはこちら!
【脊髄編②】伸張反射をどう臨床に活かす?機序やメカニズムをわかりやすく解説!
どういうことかというと、いちいち情報を脳に送っていると、それだけでとっさの状況に応じて身体が動かすことができず、時間のロスが生じてしまいます。
- 反射による筋活動の速度(脊髄由来):約50ms
- 意識を介した運動速度(大脳皮質由来):約150~200ms以上
それが起こらないように、実は脊髄内と身体で反応を起こすようになっているのです!
よくいう、子供の発達段階で起こる反射がまさにそれだね!そして、この反射は脳の発達につれてどうなっていったか覚えてるかな?
あ~、確か統合(消失されていく)されていくのでしたね!
そう!代表的な陽性支持反射とか、把握反射って徐々に出現しなくなっていくよね!
つまり大脳の発達が脊髄の反射経路をコントロールしているということになるね!
ここで考えられることは、脳卒中の場合はこの脊髄には障害を受けないということになるのですが、脊髄と末梢器官で起こる反射機構に対して、この脳からのコントロールがきいていないことで、反射が抑制されていない(=反射異常)ということが理解できます。
つまり、脊髄が存在することで単なる脳からの情報を身体に伝える、もしくは身体からの情報を伝えるハブの機能として、その情報をそのまま流すだけでなく、変化(ここでは反射を例に抑制される)させることが脊髄の機能としては重要なポイントになります。
上(大脳)からも下(骨格筋など)からも変換情報がくるということだね!
ハブの役割として情報変換器の機能を持っている
ではその中でも、脊髄には一体どういった情報が下りてくるのかについて、今回は脊髄内にある細胞を基にまとめていきたいと思います!
運動麻痺や筋緊張に関わる脊髄の2つの神経細胞とは?
今回は運動情報における下行路に絞ってまとめていきたいと思います!
運動情報に関わるということで、脊髄から出た情報は関節運動を引き起こすので骨格筋にその情報を送ります!
その骨格筋に情報を送るのは脊髄内の前方(前角細胞)にその機能があります。
※脊髄内灰白質のみ情報記載(各神経路の通り道は未記入)
脊髄前角には運動情報に関わる神経細胞が大別すると2種類あります。
- α運動ニューロン:錘外筋(骨格筋)をコントロール
- γ運動ニューロン:錘内筋(筋紡錘)をコントロール
そもそもなぜ同じ筋肉に情報を送るのに、2つに分かれているかってわかる?
機能が違うってことですか?
おっ、なかなか勘がするどいね!!
脊髄前角にある神経細胞にはそれぞれ機能が異なり、また脳からの降りてくる運動情報も異なるため、骨格筋に対する作用も異なります。
ここでもう少し細かく脊髄内の神経細胞の機能について細かくまとめていきます。
それぞれの違いは以下の表のとおりです!
α運動ニューロン | γ運動ニューロン |
---|---|
細胞体の直径 | |
直径の太さは太い 8~13μm |
細い 直径の太さは3~8μm |
興奮閾値 | |
高い 反応するまでに時間を要す |
低い 刺激が伝わるとすぐに反応する |
何気なくα・γ運動ニューロンの名前は知っていましたが、大きく形態による作用が異なるんですね!
さらに重要なことは、これらの形態の違いから、実際に臨床場面でどうこの知識を使うかが重要になってくるね!
α・γ運動ニューロンを臨床場面で考えると
まずそれぞれの神経細胞の特性から考えると、
α運動ニューロンは骨格筋を随意的に収縮させる作用
として働きます。
それに対してγ運動ニューロンは、
γ運動ニューロンは骨格筋の筋緊張(筋の張り感)を調整する作用
があります。
基本的にはこのα・γ運動ニューロンを発火させる(活動を起こす)ためには、それぞれに対する脳からの指令が必要になってきます。
- 随意的な要素であるα運動ニューロンには、一次運動野から皮質脊髄路を介して、
- 筋緊張を制御するγ運動ニューロンには、特に補足運動野・運動前野から脳幹、そして脊髄へ投射される皮質網様体脊髄路を介して、
それぞれコントロールされています。
これら2つの神経細胞が脳から下行する刺激情報が異なり、それぞれを働かすには大脳皮質による意識的な活動が必要になるということです。
ただ単なる可動域練習のような他動的な運動では働かないということですね!
さらにここで、重要なことは2つの神経細胞の違いになります。
α運動ニューロン | γ運動ニューロン |
---|---|
細胞体の直径 | |
太い 直径の太さは8~13μm |
細い 直径の太さは3~8μm |
興奮閾値 | |
高い 反応するまでに時間を要す |
低い 刺激が伝わるとすぐに反応 |
α運動ニューロンはγ運動ニューロンに比べ、神経細胞の直径が大きく、閾値が高いということです!
このα運動細胞の形態特性から何を意味しているかがわかるかな?
詳しく教えて欲しいです…
神経細胞が大きく、閾値が高いということは、単純に神経細胞が働くには刺激の量(つまり脳から降りてくる沢山の情報量)が必要になってきます。
なるほど、簡単にはα運動ニューロンは働かないということですね!
そのためには沢山の運動情報を積み上げていくことが必要になってきます。
これをrecruitment(リクルートメント)とrate coding(レートコーディング)っていったんだよね!
あ~、それ学生の頃に習った記憶が…
わかりやすくまとめておくと、
- recruitment(リクルートメント):動員
運動単位(α運動ニューロン)が増加する現象 - rate coding(レートコーディング):頻度の調節
運動単位が働く頻度の調節
という作用があるため、さらに簡単にすると、
α運動ニューロンが働くには沢山の刺激量が必要(動員)で、かつ適切にそこが働くための情報(頻度の調節)が必要になる
ということです。
α運動ニューロンについて更に詳しくまとめた記事はこちら!
【脊髄編③】α運動ニューロンの機能特性から運動麻痺に対する治療アイデアを考える!
脳卒中の場合、運動麻痺といった現象が出た際に生じるのが、連合反応や病的な共同運動パターンといった意図していないのに骨格筋が収縮してしまう現象です(運動麻痺による分離性障害)。
また脳からの指令を伝える神経線維(皮質脊髄路)の損傷で、運動の情報量も乏しくなり、結果的に骨格筋が働きにくくなります(運動麻痺による弛緩性障害)。
そのため、脳卒中における運動麻痺の問題は、本来必要なα運動ニューロンを働かして、運動に応じて必要な筋活動を適切に活動できないのが問題なのに、細胞の形態からそれがγ運動ニューロンよりも難しいということになるのです!
だから骨格筋は働きにくいのに、すぐに筋緊張が上がるんですね!納得しました!
そうだね!同じ情報量が脳からかりに降りた場合、先に発火しやすいのはγ運動ニューロンだということだね!
これに対して、γ運動ニューロンは神経細胞が小さく、閾値も小さいため少ない刺激量でも反応しやすくて、結果的に反応速度が速いということがわかります。
つまり、どちらの神経細胞をリハビリ場面で働かしたいかを考えた場合には、こういった神経細胞それぞれの特性を理解した上での治療介入が必要になってくるということなのです!
その上で随意運動に関わるα運動ニューロンを発火させるためには、大脳皮質からの情報量がとても重要になってくるということです。
大脳皮質から情報がおりにくい運動麻痺の問題はこちら!
皮質脊髄路(錐体路)を脳画像から簡単に見つける方法!運動麻痺を理解する5つの見るべきポイントとは?脊髄機能のまとめ
- 脊髄内には運動に関わる神経細胞が大きく2つ存在する
- 随意運動における骨格筋を収縮させるα運動ニューロンと、筋緊張を調整するγ運動ニューロンがある
- α運動ニューロンは神経細胞が大きく、閾値が高いため、情報がγ運動ニューロンより伝わりにくい
- 臨床場面ではいかにこのα運動ニューロンを働かせるかが重要となる
今回は運動に関わる脊髄細胞内の2つ神経細胞(α運動ニューロン、γ運動ニューロン)についてざっくりとまとめてみました。
これら2つの神経細胞にはまたそれぞれ特性があり、これらの知識をどのように臨床応用していけるかが重要になってきます。
実はまだまだ脊髄内の機能については知っておかないといけないことが沢山あるんだよ~!
でもこうやって一つ一つ細かくみていけると臨床に繋がるヒントが沢山得られそうだったので、また次回も楽しみにしています!
脳の機能と合わせて、この脊髄の機能を理解することで、臨床場面における治療介入の一助となれば幸いです。
では、また次回お会いしましょう!