前回は脊髄機構について、そもそも脊髄が運動場面でどういった役割を果たすのかについて、脳との繋がりや神経細胞(α・γ運動ニューロン)についてまとめてみました。
詳しくはこちらから!
【脊髄編①】α・γ運動ニューロンって何?運動麻痺や筋緊張に関わる脊髄機能を簡単に解説!
重要なことは脊髄は脳と身体の間のハブの役割として、情報を正しく伝えたり、また情報を変換する機能を有しているのが最大の特徴になります。
今回は、その中でも脊髄と筋肉の間の関係性に絞ってみていきたいと思います。
その際に重要となってくるのが伸張反射というメカニズムなんだけど、それってイメージできる?
学生の頃には習って、理解しているつもりだったんですけど、いざ臨床になると…
今回は脊髄と筋肉の関係性において生じる伸張反射について、その機序やメカニズムをただ知ることだけでなく、どう臨床場面でその知識を使っていくべきかについてまとめていきたいと思います。
- 伸張反射の機序が理解できる
- 伸張反射に関わる各神経線維の特徴が理解できる
- 脊髄の働き(伸張反射)を臨床に活かせる考え方が学べる
それではスタート!
目次
伸張反射の前にそもそも『反射』って何?
よく聞く○○反射とありますが、その反射って何なのでしょうか?
イメージとしては屈曲反射や腱反射のように刺激が入ると筋肉が収縮するということはなんとなく理解しているのですが…!
ではこの反射による筋収縮と、実際に運動場面で生じる随意的な筋収縮とは何が違うのかについてまとめていきます。
身体にある刺激が加わった際に、それが意識されることなく、何らかの反応として現れる生理学的な現象
つまり、反射とは意識されないもしくは意識して何かを起こしているわけではなく、結果的に大脳皮質が主体とならずに、それよりも下位のレベル(脊髄や脳幹など)が情報を処理して起こす無意識的な反応を指します。
この大脳皮質が主じゃなく、脊髄がその役割を担うということが重要なポイントになるよね!
この反射メカニズムを理解するうえで非常に重要になってくるのが、恐らく皆様も一度は耳にしたことがある伸張反射ではないでしょうか?
次に実際に脊髄と筋肉内で生じる伸張反射についてまとめていきたいと思います。
伸張反射ってどうやって起こるの?
『伸張反射』とは呼んで字の如く、伸びて張った際に生じる反射のことです!
当たり前なんだけど、これが実は筋肉のメカニズムを知る上ではめちゃくちゃ重要な要素になります。
何が伸びて張るのかというと筋肉なのですが、その筋肉の中に存在する筋紡錘という受容器がその情報(伸びて張った際の)を受け取る場所になります。
なんか筋紡錘って確かによく聞きますけど、固有感覚情報を送っているというイメージが大きかったですけど、反射にも関与しているんですね!
伸張反射とは、骨格筋に中に存在する錘内筋(筋紡錘)の一次終末が元になって生じる脊髄反射の一つになり、この反射によって結果的に骨格筋である錘外筋が収縮する(この際に重要なのが大脳皮質を介さなくてもという部分になります)ことを指します。
骨格筋の中にある筋紡錘からの筋の伸張情報が脊髄を介すことで、骨格筋の収縮反応を引き起こす反射
別名、伸びたら縮め反射ですね!(笑)
ここで大事なことなんだけど、骨格筋を収縮させるために必要な脊髄内の神経細胞って何だったか覚えてる?
もちろんですよ!前回の【脊髄編①】で習ったα運動ニューロンでしたよね!
さすが、理解が早い♪
本来であれば骨格筋が働くわけですから、その際には必ずα運動ニューロンが発火する必要があります。
ご存知の通り、α運動ニューロンを働かすためには2つの要素があり、1つは脳からの指令が重要で、大脳皮質にある一次運動野(4野)から脊髄につなぐための皮質脊髄路(大脳皮質と脊髄を繋ぐ道だから)が働く必要があります。
一次運動野から皮質脊髄路を介した筋収縮に関する記事はこちら!
皮質脊髄路(錐体路)を脳画像から簡単に見つける方法!運動麻痺を理解する5つの見るべきポイントとは?
実はちょっと話を脱線すると、この大脳皮質からα運動ニューロンに下行する神経線維の通り道は、一次運動野からの出発だけじゃなく、運動前野や補足運動野、感覚野や脳幹にまで存在するとされています(また別記事でまとめようと思います)。
もう1つは、骨格筋から直接脊髄に情報が送られる経路(メカニズム)が存在します。
- 一次運動野からの皮質脊髄路を介した刺激
- 骨格筋から生じ脊髄間で生じる反射経路を介した刺激
つまり伸張反射とは後者の骨格筋と脊髄間で生じる筋収縮反応ということがわかります。
ここで重要となってくるのが、骨格筋の筋紡錘と、その筋紡錘から情報を送る2つの神経線維になります。
次にそれぞれの特性や機能をみていきましょう!
伸張反射に重要な筋紡錘の役割
筋紡錘とは、簡単にいうと筋肉の長さの情報を感知して、その情報を脊髄や脳まで情報を送る固有感覚受容器の一種になります。
この筋紡錘は大きく3つの部分から成り立っています。
- 筋線維の束(錘内筋):紡錘状の束
- 感覚神経終末(Ⅰa・Ⅱ):出力系
- γ運動ニューロン:入力系
横紋筋と並行して走る紡錘状の構造体である筋紡錘は、すべての骨格筋に存在し、それぞれの筋の特性に合わせてその数も異なります。
ここで重要なのが、一つの筋肉に一筋紡錘ではなく、下肢などの長い筋肉には筋紡錘が数個直列に連結されており、筋全長にわたる長さの変化をまんべんなく受容しているのが特徴です。
だから姿勢を保持するための下肢などの抗重力筋(重力に対して抗するために必要な筋肉)には無意識的要素を司る筋紡錘の受容器が非常に重要になってくるんだよね!
なるほど!だから姿勢保持って意識にのぼらなくてもコントロールできるということをよく聞くんですね!
伸張反射において重要なことは、この筋紡錘から情報として送られる出力系要素の感覚神経終末と、筋紡錘を直接支配する入力系要素のγ運動ニューロンの2つの要素が非常に重要な部分になってきます。
この入力系としてのγ運動ニューロンは筋紡錘に対して感度を調節することで、出力系であるⅠa・Ⅱ群線維からの情報を絶えず脊髄に送る役割をしており、このγ運動ニューロンは主に網様体脊髄路によって情報伝達される。
γ運動ニューロンに情報を送る網様体脊髄路に関する記事はこちら!
姿勢制御の評価必見!脳画像における皮質網様体脊髄路の見つけ方!
伸張反射に重要な2つの感覚神経終末
この筋紡錘から脊髄へ上行する感覚神経終末には大きくⅠa線維とⅡ群線維の2つが存在します。
この2つの神経線維の違いは筋の変化に対して伝える情報が異なるということです。
- Ⅰa線維(核袋線維):伸張速度(速さの変化)に反応
- Ⅱ群線維(核鎖線維):張力変化(長さの変化)に反応
筋肉の変化には伸ばされる(伸張される)ことに対して、まずは筋がどの速度で伸ばされるかという筋線維が伸びる速さに反応するⅠa線維と、実際に筋が伸ばされた際の張力である筋線維の長さに反応するⅡ群線維があります。
さらに細かくこれらの神経線維にはそれぞれの特徴があります。
Ⅰa線維 | Ⅱ群線維 |
---|---|
直径 | |
太い 直径の太さは約15~20μm |
細い 直径の太さは約6~12μm |
伝達速度 | |
速い 神経線維が太く、情報伝達が速い(70~120m/sec) |
遅い 神経線維が細く、情報伝達が遅い(30~100m/sec) |
伸張初期 | |
加速度に敏感 静止時より急な伸張に対して発火(特に速い刺激に対して) |
変位の大きさに比例 筋を徐々に伸張させていくと、Ⅰaより遅れて反応 |
伸張に対する感度 | |
高い 伸張初期より加速度が生じると反応 |
低い 筋伸張性のあと、筋紡錘が引き延ばされると反応 |
弛緩時の放電 | |
なし 関節運動が生じず、筋刺激の加速度が生まれない |
徐々に低下 筋紡錘自体の反応は低下するが、Ⅱ群線維は電位を保っており、徐々に低下していく |
つまり、これら筋紡錘からの情報により筋の変化を感知することで、ヒトは筋肉の状態を刻々と変化させることができるのである。
その際に伸張反射に話を戻すと、特に重要なのが、Ⅰa線維である伸張速度の情報が脊髄内のα運動ニューロンに繋がることで、骨格筋(錘外筋)が収縮することが伸張反射のメカニズムとなるのです。
伸張反射とは、骨格筋に中に存在する錘内筋(筋紡錘)の一次終末が元になって生じる脊髄反射の一つになり、この反射によって結果的に骨格筋である錘外筋が収縮する(この際に重要なのが大脳皮質を介さなくてもという部分になります)ことを指します。
筋紡錘からの筋の伸張情報(伸張速度に由来するⅠa線維からの情報)が脊髄前角細胞のα運動ニューロンに繋がることで、大脳皮質からの直接的な指令がなく骨格筋の収縮反応を引き起こす反射
伸張反射を臨床場面で考えると…
この伸張反射ですが、臨床場面で考えた際には2つの観点から見ていくことができると思っています。
- 反射抑制機構
- 反射促通機構
伸張反射を考えた際にその反射をいかに抑制していくことが重要か、逆にその反射をどのように用いていくかを考えることが重要となります。
この考え方は私自身が臨床で感じた部分なので、あくまでも参考程度に聞いて下さいね!
伸張反射の亢進として知られる痙縮(痙性)ですが、これは1980年代にLanceら1)が提唱した定義がよく用いられます。
痙縮とは、速度依存性を特徴とした伸張反射の亢進の結果生じる、上位運動ニューロン症候群の一徴候である
Lance, J. W. (1980) Symposium synopsis, in Spasticity: Disordered Motor Control ( Feldman, R. G., Young, R. R., and Koella, W. P., eds.), Yearbook Medical, Chicago, pp. 485–494.
現在はこの痙縮ですが、様々な他の要因についても明らかになっているのですが、ここでは割愛させてもらいます!
つまり伸張反射が過剰に亢進している痙縮に対しては、伸張反射をいかに抑制できるかという反射抑制機構を考える必要があります。
その際に重要となるのが、本来反射はどうやって統合されるのかが一つのヒントになると考えます。
よく新生児で生じるような様々な反射機構ですが、これらは脳の発達によって統合されていきます。
これを伸張反射に応用して考えていくと、伸張反射は筋紡錘からのⅠa線維を介したα運動ニューロンに対する反応性の亢進が原因となるため、重要なことはいかにα運動ニューロンの活動を抑制(コントロール)できるかを考えることが必要になってきます。
ここで矛盾するのが、本来α運動ニューロンを働かせるのは随意運動として理解できるのですが、α運動ニューロンを抑制する機構なんていうのがあるのですか?
皮質脊髄路を下行する神経線維はすべてがα運動ニューロンに対して興奮性入力をするわけではなく、多くは介在ニューロンを介して接続することが様々な研究から報告されています2)。
つまり、伸張反射の亢進による同名筋の過剰収縮やそれによる二次的な筋の短縮に対して治療介入をする際は、筋を持続伸張させることではなく、筋を随意的に収縮させることが治療介入として重要な場合があります。
つまりは痙縮している筋を伸ばすだけではなく、収縮させる随意運動の練習をすることも重要になるということですね!
なんでもかんでも縮んでたら伸ばすのではなくて、しっかりと筋を働かして、脳からの情報をハブである脊髄に繋げることが重要になるということだね!
伸張反射の亢進による痙縮とは逆に反射が起きないような弛緩性の状態に対しても、この脊髄機構を考えることで治療のアイデアが浮かんできます。
反射が起きない状態というのは、先ほどの伸張反射を例に考えると、筋紡錘からのⅠaやⅡ群線維の求心性情報が脊髄を介して骨格筋に伝わっていないということがわかります。
これは急性期なんかでの弛緩性麻痺の方でよくみられる現象だよね!
これに加えて脳の障害による運動麻痺(一次運動野ないし皮質脊髄路の障害により)が加わると、脊髄内のα運動ニューロンに対しては発火させるための情報がおりにくくなります。
その際にどうやってこのα運動ニューロンを発火させるのかと考えた場合に、伸張反射を利用するための刺激入力がひとつの治療アイデアとして役立つのです。
ちなみにこの考え方を治療に用いてるアプローチ方法って何か聞いたことある?
川平法ですね!
川平法は促通反復療法といわれ、この伸張反射理論を用いた治療方法を提唱しています。
川平法では、訓練において人間の伸張反射を誘発し,自動的な
随意運動を引き起こすことで促通効果を高め患者の意図した
運動を実現している3)
川平和美:片麻痺回復のための運動療法2006
つまり伸張反射刺激をトリガーに、α運動ニューロンが働きやすい状態を作ったうえで、実際にご本人に骨格筋を収縮させるというα運動ニューロンを発火させることが、反射促通機構として伸張反射の考え方を応用した治療介入になるのです。
伸張反射に関するまとめ
- 伸張反射とは大脳皮質を介さない筋肉と脊髄間で起こる反射メカニズム
- 筋紡錘にあるⅠa線維、Ⅱ群線維の感覚神経終末からの情報が脊髄前角のα運動ニューロンを働かせる
- Ⅰa線維は筋が伸びる速度に、Ⅱ群線維は筋が伸びる長さにそれぞれ反応を示す
- 伸張反射を理解することで痙縮や弛緩性麻痺に対する治療を考えるアイデアがうまれる
伸張反射を理解するうえでまず重要なことは脊髄と筋の関係性を理解することです。
さらに脊髄内は様々な抑制介在細胞や、他の筋との関係性である相反神経支配なども考慮する必要があり、これらの知識をいかに臨床応用していけるかの治療アイデアが重要となってきます。
今回は伸張反射メカニズムを例に、痙縮や弛緩性麻痺(運動麻痺)に対してどういった治療介入に繋げていけるかの考え方をお伝えしました。
まだまだ脊髄機構は知らないといけないことが沢山あるので、また様々な情報をアップしていきたいと思います。
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それではまた~!
引用文献
1)Lance, J. W. (1980) Symposium synopsis, in Spasticity: Disordered Motor Control ( Feldman, R. G., Young, R. R., and Koella, W. P., eds.), Yearbook Medical, Chicago, pp. 485–494.
2)Jeffrey E.F, et al:Lower Motor Neuron Findings after Upper Motor Neuron Injury: Insights from Postoperative Supplementary Motor Area Syndrome.Front Hum Neurosci. 2013; 7: 85
3)川平和美:片麻痺回復のための運動療法—川平法と神経路強
化的促通療法の理論,医学書院 (2006)