運動において重要なのは、皮質脊髄路による運動指令の伝達ということは、皆さん周知の通りだと思います。
しかし、人の運動を考える上で、実はもう一つ重要な要素があるのです。
それは運動に伴う姿勢変化のコントロールが重要になってくるのです。
そして、その姿勢をコントロールするのに重要なのが、姿勢保持の指令伝達を行う皮質網様体脊髄路という経路になるのです。
昔はよく錐体路・錐体外路なんて言い方をしていましたが、現在では錐体路=皮質脊髄路、錐体外路=網様体脊髄路(実はこれは一部の経路になるのですが)と解釈することも多いのではないでしょうか?
今回は、脳卒中患者さんをみる上で、非常に重要になってくる姿勢の影響を評価するために、脳画像という側面からまとめてみたいと思います。
脳画像から探すべきはこの皮質網様体脊髄路を探すこと。
そして、これをみることで、姿勢評価の一つの指標にして頂ければと思います。
目次
皮質網様体脊髄路とは
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では、早速脳画像はどこをみるのか…と言いたいとこなんだけど、まずは、皮質網様体路の機能や役割について説明していきます。
皮質網様体脊髄路とは
脳の表面にある大脳皮質と脳幹部分の網様体、そして脊髄へと続く経路のことであり、この皮質網様体脊髄路は主に、姿勢制御や歩行運動に大きく関与する
、ということが近年多く報告されています。
この皮質網様体路については、セラピストにとっても有名な、大脳基底核や運動制御について研究をされている旭川医科大学の高草木薫教授の論文などがとても参考になります。
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参考 大脳皮質・脳幹-脊髄による姿勢と歩行の制御機構J-stage高草木先生の論文でも
運動前野、補足運動野から脳幹網様体に至る皮質網様体路は、歩行や姿勢制御に関与する
、と述べられています。
また古くは1980年代オランダの神経学者であったHenricus Gerardus Jacobus Maria Kuypers が提唱した、内側運動制御系と外側運動制御系の概念が高草木先生の論文でも説明され、
「体幹や上下肢の近位筋による歩行や姿勢制御と手指の遠位筋を用いる巧緻運動には異なる神経機構が関与する」
、と報告されています。
そして前者を皮質網様体路を含めた脊髄の前索、前側索(内側)を下行する経路として、後者を皮質脊髄路が脊髄の背側索(外側)を下行する経路として分けています。
- 内側運動制御系:体幹や四肢近位筋を支配する脊髄内側を通る皮質網様体脊髄路
- 外側運動制御系:手・足末梢部の遠位筋を支配する脊髄外側を通る皮質脊髄路
出典元:高草木薫、臨床神経学、 49(6)
そしてこの二つの経路の関係性において、両者はそれぞれが単独で働きを示すというわけではなく、運動課題や環境を含めたその時の状況に応じて絶えず、協力しあいながら運動が円滑に行うように我々の動きを制御しています。
ここでもう一つ有名な言葉の中に、近代神経生理学の始祖Charles S. Sherringtonは,
Posture follows movement like a shadow「姿勢(posture)とは運動(movement)に随伴する影のようなものである。」
、と述べています。
つまり、運動を司る皮質脊髄路とその際の姿勢コントロールを司る皮質網様体脊髄路の2つが、運動実行においては、非常に重要だということがわかります。
皮質網様体脊髄路が姿勢の何をしているの?
ここで我々人間がただの人形のような個体だと想像してみましょう。
その人形の腕を上げた途端、固定における重心の位置が前方へ移動し、その個体は前に倒れます。
これは人の運動でも同じことが言えます。
それでは運動するたびに人は転倒ということを繰り返してしまいますし、そうならないために常に何かにしがみつきながら倒れないように運動をする必要があります。
それでは効率的で滑らかな運動ができないため、あらかじめ倒れることを予測し、手を上げるといった動きに前もって倒れないよう安定させる機能が必要になってきます。
これを言葉として、先行随伴性(予測的)姿勢調節(APA’s)と言います。
そして、それを担うのが、姿勢保持に関わる皮質網様体路の機能になってくるのです。
特に我々人間は、進化の過程においてより不安定な直立二足立ちの姿勢となったため、この動きに対する姿勢を安定させるという機能が非常に重要な要素になってくるのです。
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では、この姿勢の安定化に関わる皮質網様体脊髄路は脳のどこを通るかということで、本題の脳画像から探していきましょう。
脳画像から皮質網様体脊髄路を探す
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脳には沢山の経路があり、それぞれに名前がついています。
例えば、皮質脊髄路や皮質網様体脊髄路、他にも感覚を司るような脊髄視床路などなど。
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どういうことかというと、今回説明する皮質網様体脊髄路であれば、
- 大脳皮質(出発地点)
- 脳幹網様体(途中経路)
- 脊髄(最終地点)
の3つを繋いでいる経路だから、合わせて皮質網様体脊髄路という言い方になるんだよ。
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本当にここからが本題になります。
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皮質網様体脊髄路の出発地点
では、まずは出発地点である皮質の部分からみてみましょう。
出発地点は大脳皮質の運動前皮質(高次運動野という言い方もあります)からの投射がメインになります。
ブロードマンのエリアでいうと6野にあたる部分ですね。
ここには運動前野と補足運動野という大きく2つの部位が存在します。
以前まではネコなどの動物実験からこの運動前皮質に皮質網様体路の投射が多いということが報告されていたのですが、2012年檀国大学校のYeoらによってはじめて、ヒトでの皮質網様体路の同定がテンソル画像によって報告されています。
参考 皮質網様体路の拡散テンソル画像論文アブストラクト出典元:Yeo SS.et al,2012
図:皮質網様体路が青色、皮質脊髄路が赤色の経路
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じゃあ、実際に皮質レベルの画像から運動前皮質である運動前野と補足運動野を探していきましょう。
大脳皮質レベルにおいてまず見つけるべきポイントは中心溝になります。
中心溝の同定はこちらから
脳画像から一次運動野を探す方法とは?運動麻痺の評価の最初の一歩!
中心溝がわかればその前方にあるのが一次運動野(ブロードマンエリアの4野)になります。
そしてその前方にある溝が中心前溝にあたります。
中心前溝の前方(一次運動野の前方)に位置するのが、補足運動野と運動前野になります。
脳を横からみた際に運動前野は上方を背側運動前野、下方を腹側運動前野と分けます。
脳画像のスライスでは、外側に位置するのが運動前野になります。
運動前野の機能に関する記事はこちら!
運動麻痺にも関わる運動前野の機能を徹底解説!運動前野を治療に活かすポイントとは?
それに対して補足運動野は、脳を横からみた際には前後で分けられ、前方を前補足運動野、後方を補足運動野と分けることができます。
脳画像のスライスでは運動前野より内側に位置します。
それぞれの明確な境界線は脳画像からは、はっきりとは同定するのが難しいのですが、これらは脳の血管の支配領域が異なります。
運動前野は中大脳動脈が、補足運動野は前大脳動脈が、それぞれ血管栄養します。
脳画像から皮質網様体路の経路を探す
次は、運動前皮質を下行した線維を順に追っていきましょう。
皮質網様体脊髄路の特徴は皮質脊髄路の近くを通るため、皮質脊髄路と合わせて脳画像をみるとより理解しやすいと思います。
[post id=”332″]臨床的に注意してみてほしいポイントは皮質脊髄路と同様に、放線冠周囲、内包後脚、脳幹部位になりますので、それらを細かくみていきましょう。
側脳室体部レベル
別名八の字レベルといって、脳室が漢字の八にみえるスライスになります。
ここで皮質脊髄路が、だいたい脳を横半分に切った時にそのやや下方に位置します(あくまでも目安になります)。
そして、その上に通るのが皮質網様体脊髄路になります。
Yeo SSらの論文報告によるテンソル画像をみてみても、皮質脊髄路に比べ、皮質網様体路の線維ボリュームが太くなっているのが特徴になります。
松果体レベル
ここで見つけてほしいのが、皮質脊髄路を探すのと同様に、内包後脚を探していきます。
内包後脚の中での位置関係では、より内側(視床側)にくるのが皮質脊髄路、外側(被殻側)にくるのが皮質網様体脊髄路になります。
皮質網様体路は体幹や四肢の近位筋を支配し、筋緊張を制御するため、被殻出血例では筋緊張の影響がでるケースが多い印象です。
これは別の報告になりますが、被殻出血例で皮質網様体脊髄路の損傷度合いにより歩行能力に違いがあったとの報告もあります(Yoo JS,et al.:BMC Neurology 2014, 14;121)。
参考 被殻出血例における皮質脊髄路および脊髄路の損傷の特徴BMC Neurologyすなわち、皮質網様体路は姿勢制御や歩行能力や予後において、重要な役割を示すことが様々な報告から知ることができます。
なので、このレベルでの皮質網様体脊髄路の損傷程度は今後のADLにも大きく関わってくる可能性があるため、しっかり脳画像でも確認できるようにしておいてください。
中脳・橋レベル
内包後脚を通過した線維は、皮質脊髄路に比べより正中に近い方へ移動し、中脳や橋の被蓋部へ下行します。
中脳被蓋の部位は、中脳水道から左右大脳脚の間にある脚間窩を結んだ間の領域を指します。
橋でも同様に中心部付近を下行します。
その後延髄の後方の延髄網様体を下行していき、最終は脊髄の内側に降りていきます。
皮質網様体脊髄路のまとめ
- 皮質脊髄路と合わせて同定する
- 頭頂(大脳皮質がみえる)レベルでは、運動前皮質(補足運動野と運動前野)から起始する
- 側脳室体部(放線冠がみえる)レベルでは、皮質脊髄路の前方に位置する部位を探す
- 内包後脚部ではより外側の被殻側に位置する(内側の視床側は皮質脊髄路)
- 中脳・脳幹レベルでは皮質脊髄路は前方に、皮質網様体脊髄路は後方中央に位置する
脳卒中患者さんの姿勢制御における重要性は様々な所で言われ、実際の臨床場面でも、その評価や治療に難渋することが多いと思います。
姿勢の良し悪しだけでは、判断できないことが多いですし、そもそも健常者でも左右の非対称性は当たり前にあります。
それが麻痺を伴う脳卒中患者さんならなおさらです。
つまり、そこをただ評価するのではなく、姿勢制御の本質を知りながら、動きの中で何が足りないのか、どういった時に運動の制限因子となるのかを判断できるセラピストの能力が重要になってきます。
それには、まずは姿勢制御能力そのものを評価するための「脳画像」から解釈してみてはいかがでしょうか?
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