脊髄前角には運動機能に関わる神経細胞であるα運動ニューロンとγ運動ニューロンの2つが存在します。
そして、この2つの運動ニューロンは骨格筋の中でも錘外筋、筋紡錘と別々の部位へ投射することでそれぞれの役割を介して骨格筋の制御に関わっています。
- α運動ニューロン:錘外筋に投射し、骨格筋の随意収縮に関わる
- γ運動ニューロン:筋紡錘に投射し、不随意の筋緊張制御に関わる
その際によく聞くのがこの2つの運動ニューロンが協調して働くα−γ連関という機能です。
確かに学生時代にさんざん覚えるように勉強したけど、いまいちそれがどう臨床に役立つかわかってなくて…
確かに一つ一つの運動ニューロンがわかっても、重要なのはそれらが実際にどのように働くのかの関係性をみないといけないからね!
今回はこのα運動ニューロンとγ運動ニューロンが働くことによって起こる骨格筋の作用であるα−γ連関について、わかりやすくまとめていきたいと思います。
- α−γ連関がそもそも何かを理解できる
- α−γ連関によって骨格筋にどういった影響があるかを理解できる
- α−γ連関を使った臨床応用のアイデアが知れる
それではスタート!
目次
α−γ連関ってそもそも何なの?
α−γ連関を理解するためには、まずはα運動ニューロンとγ運動ニューロンのそれぞれの機能を理解する必要があります。
詳しくは以下の記事より復習してみてください。
またこれら2つの神経細胞はそれぞれに異なる特性を持っています。
α運動ニューロン | γ運動ニューロン |
---|---|
投射先 | |
錘外筋へ投射 骨格筋の収縮に関わる |
筋紡錘へ投射 筋緊張に関わる |
投射元 | |
一次運動野(4野) 皮質脊髄路から情報を受け取る |
高次運動野(6野)・脳幹 皮質網様体脊髄路から情報を受け取る |
細胞体の直径 | |
直径の太さは太い 8~13μm |
細い 直径の太さは3~8μm |
興奮閾値 | |
高い 反応するまでに時間を要す |
低い 刺激が伝わるとすぐに反応する |
これら2つ運動ニューロンはそれぞれが独立して骨格筋に作用するわけではなく、実際はそれぞれが相互に関係性を持ちながら骨格筋に影響を及ぼします。
そして、このα・γ運動ニューロンが相互作用する働きをα−γ連関(アルファガンマ連関)と言います。
骨格筋の随意収縮に関わるα運動ニューロンと不随意の筋緊張に関わるγ運動ニューロンの2つの関係性によって成り立つ骨格筋への作用
言葉では聞いたことあるけど、本とかみててもなんとなくでしか理解できていないのが実際です。
では、このα−γ連関によって骨格筋にはどういった作用が及ぼされるのかについて、そのメカニズムについてまとめていきたいと思います。
α−γ連関がどのように骨格筋に作用するのか?
ここでは脳の働きを踏まえて脊髄前角にある2つの運動ニューロンがどのように相互関係を持ちながら骨格筋に作用を及ぼすかをまとめていきたいと思います。
実は大事なことは、脊髄機能(α・γ運動ニューロン)と脳を絡めて考えることで、そうすると一気に理解が深まるよ!
まず重要なのが、随意運動が起こる際には必ず運動の前に先行して必ず運動が企画され、それに対する適切なプログラムが生成されます。
その際に主に運動企画には前頭前野が、プログラム生成には高次運動野(6野)が働きます。
脊髄内のγ運動ニューロンを下行した運動情報は、骨格筋の中にある筋紡錘に出力し、筋紡錘の感度を調整します。
筋紡錘の感度を調整することにより、関節がどの肢位にあっても筋紡錘がゆるむことなく、その筋紡錘から絶えず求心性情報がα運動ニューロンに送られます。そのことにより脳からの随意的な収縮指令なしに、不随意的に骨格筋が弱い収縮(筋緊張)を行います。
運動中も絶えず脳幹などからはγ運動ニューロンに情報が出力され、筋紡錘が働くことで筋緊張は動きに合わせて適切に調節され続ける。この作用によって、骨格筋を働かすためのα運動ニューロンへの刺激は持続的に送り続ける必要がなく、少ない力で骨格筋を収縮させる(運動を維持すること)ができる。これがα−γ連関の最も重要な特性になります。
以上がα−γ連関が正常に働くことで起こる骨格筋に対する作用になります。
まとめるとα−γ連関が正常に機能することで筋緊張を維持し続けながら骨格筋を効率よく働かせることができるということだね!
脳卒中によって痙縮のような筋緊張異常が組み合わさると骨格筋をスムーズに収縮させることができないから、結果運動がぎこちなくなったり、二次的な代償を引き起こすのですね!
α−γ連関が作用しない場合はどうなるの?
一般的な運動麻痺(ここでは皮質脊髄路が障害を受けている場合)が出現している場合にはこのα−γ連関にどのような影響を及ぼしているかを考えてみます。
皮質脊髄路の障害なので、ここではα運動ニューロンが働かない場合を想定していくね!
皮質脊髄路の障害がメイン(放線冠のラクナ梗塞や内包後脚の障害)の場合はここの運動企画&プログラムの段階ではそこまで大きなエラーは起こらない。ただし、運動麻痺を呈した状態で繰り返し学習された動きでは、そもそもの運動プラグラムの問題が2次的に生じている可能性があるため、その際は非麻痺側との運動時のパターンで評価する必要あり。
例えば手をあげるといった動作も運動プログラムが違えば手をあげる時のあげ方(肩の位置や肘の角度、手首の連動した動きなど)に異常パターンが生じる。
皮質網様体脊髄路は皮質脊髄路と線維走行が前後の関係で近いが、特徴として同側ないし両側支配をもつため、下行路としての機能は残存する可能性がある。そのため、脊髄前角にあるγ運動ニューロンへの作用は働くことが可能となる。
脊髄内のγ運動ニューロンを下行した運動情報は、骨格筋の中にある筋紡錘に出力し、筋紡錘の感度を調整する。ここで気をつけないといけないことは、同側支配ということで、非損傷側の脳機能の過活動が生じた場合(非麻痺側の過剰努力や姿勢保持における姿勢保持筋の過活動など)、γ運動ニューロンに対する刺激量も多くなる。そのため、通常の感度調整より強く筋紡錘が発火する可能性あり。
上記step3の理由で筋紡錘の感度調整不良があった場合に、筋緊張調整の問題が生じる。特に痙縮などの原因因子である伸張反射異常などがそれにあたり、関節運動に対する速度依存性の筋緊張亢進が起こる場合あり。
皮質脊髄路の障害によりひとつはα運動ニューロンに対する促通性の出力低下が起こることで運動麻痺が生じる。それだけでなく、抑制性の介在ニューロンを介したα運動ニューロンの活動調節もできず、上記γ運動ニューロンの過活動に伴うα運動ニューロンの発火障害による筋緊張のコントロールが困難となる。
α−γ連関の機能としてα運動ニューロンが正常に働かないことによる運動麻痺と、それに付随して起こるγ運動ニューロンの過活動による筋緊張異常が出現することが問題点としてでてくる可能性がある。
皮質脊髄路による運動麻痺ってα運動ニューロンが働かないだけじゃなく、筋緊張にも問題が生じるんですね!
このα運動ニューロンに対する抑制性介在ニューロンのことは結構臨床でも大事なことだから是非知っておいてね!
さらにα運動ニューロンに関する詳しい内容を知るにはこちらも参考にしてみてください!
【脊髄編③】α運動ニューロンの機能特性から運動麻痺に対する治療アイデアを考える!次に皮質網様体脊髄路障害が出現している場合にはこのα−γ連関にどのような影響を及ぼしているかを考えてみます。
皮質網様体脊髄路の障害なので、ここではγ運動ニューロンが働かない場合を想定していくね!
皮質網様体脊髄路の障害がメインの場合も、皮質脊髄路障害同様に運動企画&プログラムの段階ではそこまで大きなエラーは起こらない。ただし、筋緊張に問題が生じた状態で繰り返し学習された動きでは、動きのパターン(シナジーともいう)に何らかの問題が生じている可能性があるため、複合的な関節運動を細かく評価する必要がある。
皮質網様体脊髄路の障害ということはここから下行する情報がγ運動ニューロンへ出力されないためγ運動ニューロンが働かなくなる。
γ運動ニューロンが働かないことで、筋紡錘自体が働かず、結果的に筋緊張低下や上行性の感覚入力(固有感覚情報)にエラーが生じる。
筋紡錘の感度が上がらないことによって、運動時に伴う適切な筋緊張変化が起こらない。そのため、筋収縮に対する反応速度の遅延や動きのフィードバックがかからず、運動出力にも影響を及ぼす。
通常はα−γ連関の作用により、関節がどの位置にあっても常に筋緊張を保ちながら少ない筋活動でも運動実行が可能となるが、γ運動ニューロンが働かないことで持続的な筋収縮の維持(筋緊張低下が出現)が困難となる。これは臨床場面でもよく遭遇する皮質脊髄路の過活動としての意識的な運動要素が強くなる要因となる。
γ運動ニューロンが働かないことで、皮質脊髄路を介した意識的な筋収縮持続が必要となるだけではなく、強い筋収縮力を引き出す際にも反応するα運動ニューロンの数が少なくなり(全か無かの法則も影響)、結果的に円滑な関節運動が阻害される。
γ運動ニューロンの機能不全は筋緊張の異常と、錘外筋の収縮力にも影響を及ぼすんですね!
臨床的にみても麻痺はないけど筋緊張が低下しているケース(例えば小脳出血例)って筋収縮力をコントロールするのが苦手になるよね!
確かに急に力が強く入ったかと思えば、急に抜けることもあるし、なんだか一定しないって感じですね!
さらにγ運動ニューロンに関する詳しい内容を知るにはこちらも参考にしてみてください!
【脊髄編④】γ運動ニューロンって何をしてるの?筋緊張を理解する上で必ず知っておくべき知識とは?以上がα−γ連関が正常に働かない場合に生じる可骨格筋に対する影響になります。
臨床場面ではこれらの問題が複雑に絡まっって生じているケースが多く、問題点の同定は非常に難しいです。
ただ、可能性としてこういった脳神経生理の知識を知りながら介入するのと、知らないで介入するにはアプローチに関する考え方も変ってきます。
是非、また臨床場面での患者さんの反応をみてみてね!
α−γ連関に関するまとめ
- α−γ連関はα運動ニューロンによる錘外筋の収縮とγ運動ニューロンによる筋緊張調整が相互に働く作用である
- 2つが相互に働くことで円滑な関節運動が可能となり、少ない筋活動でも筋収縮活動の維持がされやすい)(反射機構によるα運動ニューロンの賦活)
- α運動ニューロンの活動低下は骨格筋収縮不全による運動麻痺だけでなく、筋緊張制御にも影響を及ぼす
- γ運動ニューロンの活動低下は筋緊張低下だけでなく、骨格筋収縮にも影響を及ぼす
つまり、2つの運動ニューロンそれぞれが単独で機能しているわけではなく、相互の関係性で運動が成り立っているということだね!
このα−γ連関の機能を意識するだけでも、運動麻痺や筋緊張それぞれに対する治療のアイデアが出てくるため、是非2つの関係性を理解することを行ってください。
まだまだ脊髄機構は知らないといけないことが沢山あるので、また様々な情報を今後もアップしていきたいと思います。
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それではまた~!