運動野は随意運動を司る部分、これは皆さんよくご存じのことかと思います。
では運動前野は何の機能をもった部分ですか?と問われると悩むセラピストって多くないですかね。
リハアイデア
運動機能に関しては、患者さん本人に動いてもらった時にどういった動きをするかで、例えば麻痺があるとか、分離運動が苦手なんてことが目に見える反応や現象としてある程度評価によってわかります。
しかし、運動前野の機能って、実は目にみえるようでみえない反応を示したりするので、臨床場面でも断定して運動前野の機能が悪いって考えるケースが少ないのではないかと思います。
しかし、実際はこの運動前野の機能をみれることで、臨床での視点がかなり変わってきます。
今回は、そんな運動前野の機能について私自身が色々調べた中で大事だと感じた点、臨床にどのように活用していけば良いかという点を、徹底解説していきたいと思います。
目次
運動前野ってそもそもどこにあるの
脳の機能局在から探す
まずは、運動前野の場所について脳の中を探していきましょう。
名前の通り、運動前野ということで、運動野(ブロードマンの4野)の前方に位置します。
ブロードマンのエリアでいうところの6野という位置がそれにあたります。
よく脳の部位を覚えなさいって、学生の頃や新人の頃に言われた経験はございませんか?
そして、この運動前野の位置を知ることで何になるの?
そんな疑問を持ったことないですか?
リハアイデア
カスミ
リハアイデア
脳を知る上で、我々セラピストは脳を直接のぞき込むことはできません。
でも脳画像を通して、その損傷程度や詳細な部位を知ることは可能です。
つまり脳の位置を知るために脳画像を通して、その位置を把握しておくと、後々それをもとに予後予測が立てれたり、どの残存機能を用いて治療しようといった、治療の幅が広がることが多くあります。
脳画像は1分でみて、残りの59分は目の前の患者さんをみろ
これは尊敬するリハ医に言われた言葉!
脳画像をみることが目的ではなく、患者さんをみるために脳画像を使う。脳画像をみることに時間や労力を割くのではなく、その人の可能性を1%でも引き出すために、このブログを発信し続けたい。— rehaidea (@rehaidea) 2017年10月25日
なので、次はただ脳の中での位置を探すだけでなく、実際の脳画像を介して運動前野の位置を探していきましょう。
脳画像から探す
大脳皮質がみえる頭頂レベルにおいてまず見つけるべきポイントは脳溝です。
その中で重要になってくるのが中心溝です。
中心溝の探し方はこちらに詳しく書いています。
脳画像から一次運動野を探す方法とは?運動麻痺の評価の最初の一歩!
中心溝がわかればその前方にあるのが一次運動野(ブロードマンエリアの4野)になります。
そしてその前方にある溝が中心前溝にあたります。
そして、そしてこの中心前溝の前方(一次運動野の前方)に位置するのが、運動前野となり、脳画像のスライスでは外側に位置します。
この運動前野ですが、実は2つの部位に分けられ、それぞれ異なった機能をもっていると報告されています。
機能についてはのちほど詳しく解説していきますが、まずはその場所からみてみましょう。
脳を立体的に横からみた際に運動前野は上方(背側)と下方(腹側)に分けられます。そして、上方を背側運動前野、下方を腹側運動前野と言います。
リハアイデア
脳画像的にはこの上下で明確な境界線がなく、それを分けることは難しいと思います。
なので、あくまでも目安になりますが、より頭頂レベルに近い方が背側運動前野で、次の下のスライスレベルの半卵円レベルでは腹側運動前野になるようなイメージで良いのではないでしょうか?
あとは実際の症例さんの症状と照らし合わせていくことが大事になってきます。
- 一次運動野の前方及び外側にある
- 運動前野の中でも上下で背側・腹側に分けられる
この2点を覚えておいてください。
そして、この運動前野は内側にある補足運動野と合わせて運動前皮質(または高次運動野)という呼び方もされています。
リハアイデア
そして、この運動前野・補足運動野の内側・外側を分ける明確な指標も脳画像からはわかりません。
ただ、この2つの領域は支配する血管領域が異なるため(運動前野は中大脳動脈で、補足運動野は前大脳動脈)、脳梗塞では詰まった血管によって、どちらの障害が主に影響を受けるかが容易に判断できます。
正確には、運動前野を中大脳動脈の前Roland動脈が、補足運動野が前大脳動脈の脳梁辺縁動脈が血管支配をしています。
しかし、脳出血の場合はある程度画像をみて予測を立てることが必要になってきますし、実際の症状との照らし合わせを忘れずに行ってください。
じゃあ、この運動前野がどういった機能があるのかっていうことが気になると思いますので、実際に次はそれをみていきましょう。
運動前野って何をしているの
リハアイデア
カスミ
なんだかよくわかりません。
これは古くは1977年のMollとKuypersによって、その機能についてのメカニズムが説明されました。
これはサルでの実験結果によるものなのですが、運動を実施する際の手順にエラーが出たとのことです。
その中でも視覚的に情報を捉えたうえで実行する動作にエラーがでやすいことが報告されています。
これを視覚誘導性動作や運動依存性の視覚応答性などの難しい言葉で表されるのですが、重要なのは外的な情報(視覚を伴った)に基づいて行う運動課題の際に、より選択性の高い応答を示すということになります。
これをわかりやすく解説してくれているのが、「病気がみえる vol.7脳・神経」で、そこでは、
視覚情報など外界からの情報を引き金として、適切な一連の運動を準備する
と説明され、さらに例として
信号が青になったのを見て、自然と足を踏み出そうとする
と記載されています(病気がみえる vol.7脳・神経:MEDIC MEDIA,2015)
つまり、これが視覚に伴った(目で見た情報に対する)運動の選択になるということです。
さらに、近年では様々な研究が報告され、運動前野は大脳の高次運動野として、大きく3つの重要な働きをしていることがわかってきています。
- 運動と動作の誘導
- 感覚情報と動作の連合
- 動作プランの形成
脳機能部位を考えた場合、大脳皮質にあるブロードマン領域の部位はそれぞれに機能を有しています。
しかし、それぞれが単体で働くのではなく、いくつかのネットワークを形成して、ある動作においてその機能を最大限に発揮します。
そのため、どの部位とのネットワークが強く、どういった時にそのネットワークが働くのかを知る必要があります。
この運動前野においては、主にさきほど挙げた機能の①と②では、頭頂葉から送り込まれた感覚情報を運動前野が処理し、動作の発現と制御に役立てている、ということがいわれています。
③では、大脳前頭葉の高位中枢である前頭前野から送りこまれてくる抽象的な動作プランを、実行可能な動作プランに変換し、出力機構である一次運動野へ送り出すことが行われている、といわれています。
この抽象的な運動プランを実行可能なものにすることが、運動プログラムの発現ということなのです。
もう少しわかりやすくすると、
リハアイデア
そこから、今の季節は寒くなってきた(感覚情報)とか、何気なくみた旅行パンフレットやテレビの旅番組(視覚情報)から温泉に行きたいとなったとしましょう。
そしたら近くで行けるのは有馬温泉(兵庫県)かな、いや、せっかく泊りでいくなら別府温泉(大分)にしようかなといったように行き先(運動プラン)が決まります。
このように外的刺激に伴う運動プランを立てることが運動前野の機能だということです。
そして実際に温泉に行くという行為そのものが一次運動野の運動実行になるわけです。
これは運動に置き換えても同じです。
目の前にあるペットボトルのお茶を飲もうという運動を例に考えてみます。
それによってペットボトルがどの方向にあって、それにはどの程度お茶が入っていて、自分に対してどの程度離れているのかを瞬時に脳が判断します(運動プラン)。
そして、実際に取りに行く際は、数ある運動のパターンから最も最適な運動プランを選択することができます(運動実行)。
このように、一連の運動の中で、自分の置かれている状況や、環境などの様々な外的刺激に対してより適切な運動を作り出すことに、この運動前野の機能が重要になってくるのです。
まとめると、運動前野が何をしているかは、感覚情報を通して(特に視覚を伴った)運動プログラムの発現に関与するということになるのです。
このように運動前野の機能が少しずつ明らかになってきた一方で、その中でも現在は2つの領域に分けられ、個々の機能にも違いがあるということもわかってきました。
運動前野はその位置関係によって背側運動前野と腹側運動前野に分けられます。
この二つの領域に関しては様々な研究報告がありますが、その中でも蔵田らは1997年の報告でこれら2つの機能分担についてまとめています(これが個人的にはわかりやすかったため)。
そこでは、
- 背側運動前野は条件付き運動課題における準備状態の形成
- 腹側運動前野は空間的に与えられた感覚情報を運動司令へと変換する過程
と報告されています(蔵田潔:感覚誘導性運動における大脳運動前野腹側部と背側部の機能分担、1997)。
以下ではその他の様々な報告による、それぞれの運動前野の部位(背側・腹側)における機能を挙げています。
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- 背側運動前野のニューロンを調べたところ、運動野のニューロン数と比較として準備ニューロン、手掛かり刺激に応答するニューロンの数が多いことがわかった。(Weinrich et al:A neurophysiological analysis of the premotor cortex of the monkey.Brain 107,1984)
- 動作のプランニング”情報を統合する機能があり、大きく4つの神経細胞の集合体がみつかった。(動作目標を決める時に活動する細胞、使う身体の部位を決める時に活動する細胞、プランニングの後半で動作そのものを表現する時に活動する細胞、プランニングの前半では動作目標及び使う身体の部位を決める時に活動し、プランニングの後半では動作そのものを表現する時に活動する細胞)(丹治 順:2000)
- ミラーニューロン(自分が行為を実行するときにも他者が同様の行為をするのを観察するときにも活動するニューロン)が存在する部位。(Rizzolatti et al:Premotor cortex and the recognition of motor actions. Cognitive Brain Research 3,1996)
- サルの腹側運動野は上肢の肢位に関係なく、運動方向に対して選択的に反応を示す。(Shinji Kake et al:Direction of action is represented in the ventral premotor cortex.Nat Neurosci 4,2001)
こうやって色々調べると様々な機能があることがわかります。
そもそも、この運動前野が障害されると直接的な運動の有無ではなく、熟練した動きができなくなるということが一般的に教科書などで目にする部分ではないでしょうか。
つまり、運動前野の機能を考える上で、重要なのは、運動出力の前の準備段階として、適切な運動指令を出す部位として理解しておくことが大事になります。
運動前野の機能がより明らかになってきた
このように運動の準備として、特に視覚的な刺激に対する運動変換に重要なのはある程度理解できたと思います。
そして、この数年の間でも、この運動前野の機能については様々な目新しい報告がいくつもされています。
その中で、我々セラピストが知っておかないといけないのは、この運動前野が直接損傷された際の機能はもちろんのこと、どのように運動に活用していけるのかも考える必要があります。
実はそこに運動前野の機能として重要な役割があることが明らかになってきているのです。
ここでは、脳卒中例での研究結果を参考に、運動麻痺に対してこの運動前野がどのような役割を担っているのかを考えてみたいと思います。
実際に、運動前野がどのように脳卒中後の身体機能に関わるのかは、以下の論文等をご覧ください(この他にも沢山あると思いますが、とりあえず私がみつけた文献に絞っています)。
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- 脳卒中後の上肢運動麻痺に対して、能動的な活動により腹側運動野の活動の向上を認めた(Hurn U et al:Increased ventral premotor cortex recruitment after arm training in an fMRI study with subacute stroke patients. Behav Brain Res 15,2016)
- 脳損傷回復時には残存する脳領域(運動前野腹側部と損傷近傍の第一次運動野)の活動が変化し、損傷した領域の機能を肩代わりしていた。(産業技術総合研究所,2015)
- 運動前野から出ている皮質脊髄路の微細構造の残存程度は、脳卒中後の運動機能の回復を援助する役割がある(Schulz R et al:Assessing the integrity of corticospinal pathways from primary and secondary cortical motor areas after stroke.stroke 43,2012)
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カスミ
リハアイデア
ここまで読んでくれた方は、運動前野は運動の準備段階として重要なのはわかったと思います。
そして、ここでは運動前野は実は運動準備だけでなく、運動出力にも直接作用するということを理解して頂ければと思います。
つまり、何が言いたいかというと、脳機能を考えた際に、脳の部位の単一機能だけを考える必要もあるのですが、実は、脳内のネットワークの中でそれら機能が最大限に発揮できることを、様々な実験データや研究結果から読み解き、セラピスト自身がそれを普段の臨床場面で常に「トライ&エラー」を繰り返すことが大事になってくるのだと、私は思います。
運動前野に対する治療ってどうするの
じゃあ、実際に脳卒中後のリハビリの中で、この運動前野の機能を考えた場合どう治療に活かせるかってことになります。
ここでは、脳卒中後の運動麻痺にフォーカスを絞ってお伝えしていきます。
つまり運動麻痺に対して、運動前野がどのように働くのか、そのためには何が必要になってくるのかという点です。
そこで、もう一度運動前野の機能についておさらいしていきましょう。
- 運動前野は運動課題における運動の準備形成に作用する
- 外的刺激(特に視覚刺激)からの、運動プログラムの変換の際に優位に働く
- 運動前野からも皮質脊髄路の下行路が存在する
- その活動は受動的ではなく、能動的な活動においてその反応性を示す
以上のことから、運動麻痺に対して運動前野を働かせるためには、
- 自分で動いてもらう(能動的)
- 動きたいと思えるような準備段階を作っていく
- その際に視覚的な刺激による運動発現の生成が重要
となります。
これを例えるなら、
次に、旅行に行くためのプランや行き先を予算や日程の関係から可能な条件の中で決定し(外部刺激による運動準備の生成)、実際に電車で行くのか、バスで行くのかといった方法や計画(運動プログラムの変換)を立てる。
そして、実際に旅行に行くという行動に移させるか(能動的な運動)といったことをみていく。
といったことになるでしょうか。
つまり、麻痺肢に対してただベッド上でROMやマッサージ、一緒に動かしましょうといった介助的な訓練ではなく、本人が手を動かしたと思えるような、そしてそれを動かすために必要な設定の中で(ここでの設定には運動方向や対象物の選別や視覚刺激など)、自ら麻痺肢を動かすということを心掛けた治療が必要になってきます。
そして、これは近年よく言われるCI療法におけるトランスファーパッケージの考え方に起因すると、私自身は考えています。
トランスファーパッケージ
CI療法は,麻痺手に対する量的訓練, 課題指向型訓練,訓練によって得た機能回復を日常生活動作に転移(transfer)させるための方略(Transfer package)のコンセプトから構成されている(Morris D et al:Constraint-induced movement therapy:characterizing the intervention protocol. Eura Medicophys 42,2006)
実際の運動場面(先ほどのリーチ動作)に運動前野及びCI療法の観点も取り入れて考えると、
リーチするために、今ある身体機能にあったリーチ動作が可能は適切な位置や重さ等の課題設定(リーチ範囲や上肢筋力を想定した難易度設定による運動プランの生成)と、それによる運動方法の選択(運動プログラムの変換)を評価する。
そして、実際にリーチをした際の上肢機能(能動的な運動)をみながら、足りない要素や必要な機能を反復して練習し、病棟内でも使える日常生活動作に反映させていく。
これはあくまでも一例ですが、こういったことが、運動前野を活用した治療につながるのだと思います。
リハアイデア
運動前野の機能におけるまとめ
- 運動前野は一次運動野の前方・外側に位置する運動機能に関わる領域
- 外部刺激(視覚に特化した)に対して運動準備や運動プログラムの生成に関わる
- 運動出力に対して脳卒中後ではその機能の肩代わりをする役割がある
- 運動前野の機能を使った治療プラグラムの選択が必要
今回は、運動前野の部位や機能についてまとめてみました。
リハアイデア
これら運動前野の機能は、今後も様々なところで研究され、その機能特性がさらに新しくアップデートされていくと思います。
その中でそういった知識をセラピスト自身がどのように活用し、治療の中で使っていけるかは、それを学んだセラピストにしかわからないと思います。
是非、まずはベースとなる知識を理解した上で、それをどのように活用していくかを考えながら臨床をみてみて下さい。
それではまた。
運動前野を学ぶ上での参考書籍はこちら
最新 運動と脳―体を動かす脳のメカニズム (ライブラリ脳の世紀:心のメカニズムを探る)
脳と運動 第2版 ―アクションを実行させる脳― (ブレインサイエンス・シリーズ 17)
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[…] 運動前野に関する記事はこちら! […]