半側空間無視のリハビリに必要なメカニズムを徹底解説!無視ではなく注意障害という観点から!

こんにちはリハビリアイデア(@rehaidea)です。

臨床場面でもよく遭遇する半側空間無視ですが、皆様はこの半側空間無視に対して普段どのように関わりをもっていますか?

半側空間無視と聞いたらどんなイメージを持ってる?

リハアイデア

カスミ

左側をみなくて、ずっと右側をみているようなイメージですかね。あまり臨床でもみたことがないのですごく大雑把ですが(笑)

臨床場面でみる半側空間無視の症状で考えられるのは・・・

  • 片側を無視する
  • 片側に注意が向かない
  • ずっと同じ方向を向いている
  • 片側の手や足をよくぶつける
  • 左側の障害が多い
  • ADL場面で片側のものを見落とす …など

こういった現象を思い浮かべるのではないでしょうか?

じゃあ、その半側空間無視に対して普段の臨床ではどうやってアプローチするの?

リハアイデア

カスミ

え~、左側から話しかけるとか左側を向かすとかですかね。正直、半側空間無視にはどうアプローチしていいかがわからないのが本音です。

半側空間無視に関してどのようにアプローチするのかって、臨床場面でも本当に難渋することが多いと思います。

僕も昔はよくSTさんとかに頼っていたな~!

リハアイデア

実はアプローチをするにしても、片側の空間をみない・無視するといった『半側空間無視』という症状として捉えるだけではダメなのです。

そして、そもそもなぜこの半側空間無視が左に多いのかといった病態把握も非常に重要になってきます。

つまり、その症状が脳内でどのように起こっているのかの細かな病態把握や、そのメカニズムを知らないとなかなか直接的な治療に繋がらないのが現状なのです。

そして近年は、この半側空間無視に対するメカニズムの解明が脳科学の発展によって、より明確になってきて、治療的介入もある程度の指標ができてきているようなのです。

カスミ

やはり、最新の知見などは勉強しないといけないですね。

今回は臨床で難渋するであろう高次脳機能障害のうち、半側空間無視についてその病態を注意という側面からまとめていきたいと思います。

まずは、基本的な病態を知ることが治療における第一歩となっていくのです。

それではスタート!

半側空間無視(Unilateral Spatial Neglect:USN)とは

そもそも半側空間無視とは何なのか?

実は半側空間無視の研究はずっと昔からされていて(歴史的には1940年代~)、その当時は頭頂葉による空間情報の障害として「頭頂葉症候群(Posner 1987)」と捉えられていました。

しかし、頭頂葉の病変がないにも関わらず半側空間無視の症状がでてきたり、その症状も個別性があり、この部位だけの問題ではないということが報告されるようになってきました。

確かに、臨床上なんでこの人半側空間無視ってでるのって思う時あるもんな~。

リハアイデア

そういったことから、頭頂葉症候群という考え方が見直され、半側空間無視の一般的な定義としては、

大脳半球損傷の対側に提示された刺激を報告したり刺激に反応したり、与えられた刺激を定位することの障害 (Heilmanら1993)

と、報告されるようになりました。

そして、それは左側の脳の損傷に比べ、右側の脳の障害によって強く症状がみられやすく、頭頂葉や前頭葉に障害部位が多くみられるということが報告されるようになってきました(Molenberghs ら、2012)。

Molenberghs P,et al:Is there a critical lesion site for unilateral spatial neglect? A meta-analysis using activation likelihood estimation.Front Hum Neurosci. 2012

つまり、それらをまとめると半側空間無視とは、

半側空間無視とは
右半球の頭頂葉・前頭葉の損傷後に生じやすい神経学的症候で、無視空間に対して方向性に注意を向けたり、それを維持することが障害を受けた状態。

を指すことがわかります。

なので、半側空間無視を呈した症例さんを見たときに「あ~、この人は左空間がうまく認識できていないんだろうな」と解釈することができ、結果「左側をみない(無視する)障害」として普段の臨床場面でも捉えられるのだと思います。

しかし近年では、脳機能に関する様々な研究データの報告や、脳の可視化等により、半側空間無視に対する考え方も少し変わってきているのが現状なのです。

そして実際には、

半側空間無視は「注意ネットワーク症候群」として再考され、受動的注意の低下が病態の根源(Corbetta et al 2011)

と報告されるようになってきました。

つまり空間として見えない状態ではなく(あくまでも無視している状態で)、状況に応じたら能動的(自分から)には認識できる可能性があるというのが一般的な解釈になります。

そして、あくまで病態の本筋は、外部からの刺激に対する受動的な部分での注意の切り替えが行いにくい、といった障害になってくるのです(ただ重度の症例の場合は、もちろん能動的な部分での障害も呈します)。

つまり、半側の空間は無視するのだけど、その原因は注意を向けるネットワークが問題であり、そのネットワークを新しく組み換えることができ、能動的なものよりむしろ受動的な注意配分が動作の中で自由に行えれば良いというわけなのです。

なので、この2つのことを理解することができれば、実は半側空間無視の治療介入していくためのヒントが隠されているということになるのです。

リハアイデア

カスミ

う~ん、そうはいってもいまいちイメージしにくいですね。

注意ネットワークとか、受動的or能動的注意って一体どういうことなんですか?

だろうね(笑)。文章でこう書かれても中々イメージしにくいのが現状だね。

リハアイデア

それでは、もう少し具体的に半側空間無視の病態をみていきましょう!

半側空間無視に関わる注意障害とは何を指すのか?

まずは注意ネットワークを知る前に、そもそもの注意というものが何なのかについて少し考えてみよう。

日常生活場面を想像してもらえれば良いのですが、注意といっても、何かに注意を向けたり、同じところに注意を持続させたり、他に注意を逸らしたり、様々な場面で注意という言葉を用いると思います。

そもそも『注意』と言っても実はその言葉の概念の中では、いくつかの要素に分かれており、それぞれの要素に特性があるとされています。

カスミ

えっ、じゃあ注意障害といっても色んな注意の問題がでるっていうことですか?
ここでは、まずは注意という言葉そのものについて少しまとめてみよう!!

リハアイデア

以下は認知心理学的な注意の考えになりますが、注意の構成要素は大きく4つに分けることができます。

注意の構成要素

注意を構成する4つの要素
  1. 注意の転換
  2. 注意の選択
  3. 注意の持続
  4. 注意の分配

これら4つをまとめて『注意の制御機構』と位置づけられています。

注意といっても臨床症状では集中できなかったり、切り替えられなかったりと様々な注意の問題がでてくるもんね。

リハアイデア

カスミ

確かに。でもなんだかまた色々難しい言葉が・・・
注意
ここではまずは注意という言葉の概念的な考えになります(注意の種類といったイメージ)。後程でてくる受動的・能動的注意といった言葉は、それを大きく捉えた形になるので(注意の方法といったイメージ)、少し分けて考えてくださいね。

では、これら4つの注意に関する言葉を、もう少し簡単にみていくと、

注意を構成する4つの要素
  1. 注意の転換:今起こっていることから他に切り替える
  2. 注意の選択:複数の中から「これに決めた」と選択する
  3. 注意の持続:一つのことに集中する
  4. 注意の分配:「●●しながら□□をする」のように2つのことを同時にする

カスミ

こうやって噛み砕くと、なんとなく注意にも種類があるということがわかりますね。
そうだね。だから注意の障害といってもどういった注意に障害があるのかは臨床場面ではしっかり判断しないといけないんだね。

リハアイデア

じゃあ、これを臨床的な場面での食事動作の中でみていくとしてみよう。

そうすると・・・

注意を食事場面で考えると
  1. 注意の転換:ご飯を食べていたが、おかずに変える
  2. 注意の選択:どれから食べようか考え、好きなものから食べる
  3. 注意の持続:部屋に入ってきた看護師さんに気を取られない
  4. 注意の分配:同室者の方と話しながらご飯を食べる

といったことになります。

この中でどういった注意機能に障害がでているのかは、リハビリ場面よりも普段の病棟ADLをみている看護師さんから情報収集することが多いよ!

リハアイデア

半側空間無視における注意障害の問題とは?

じゃあ、これら注意の要素のうち半側空間無視には何が関わってくるのかということですが、最も大きく関わってくるのが『注意の転換』『注意の選択』になります。

カスミ

何故、この2つなんですか?

日常生活において、我々は膨大な情報の中で生きています。

それらすべての情報に注意が逸れてしまったら、それこそ何にも集中できません(このブログを書いている私はブログを書きながらも、部屋の隅にあるマンガに目がいったり、テレビに目がいったりで注意が逸れまくっていますが・・・笑)。

つまり、今必要な注意を向ける対象が何で(選択)、それをどの場面でどう切り替えるか(転換)を日常生活場面では常に繰り返したり、コントロールしたりするわけです。

では、半側空間無視の方の場合を考えると、いくら刺激をいれても、ある特定の空間にはその注意を切り替えること(転換)が苦手だったり、そもそも半側に対して意識的に注意を向けること自体(選択)が難しい状態なのです。

それに対して、ある課題に対してずっと、集中し続けること(持続)や2つの課題を同時並行で遂行していく(分配)などは、どちらかというと、ワーキングメモリーに関わる前頭葉機能が主として働く場合があるので、半側空間無視独特の病態というよりかは、脳機能全般的な影響としての症状と捉える方が良さそうです。

半側空間無視における注意ネットワーク障害という考え方!

こういった病態から考えられていたのは、空間性注意の神経ネットワーク説方向性注意障害説が半側空間無視における重要なメカニズムだとされていました。

以下では、それぞれの説について、簡単にまとめていきたいと思います。

まず半側空間無視を知る上では、何故注意障害が起こってくるのか、何故左側に多いのかについて理解することが必要になってきます。

半側空間無視のメカニズム①:空間性注意の神経ネットワークとは

半側空間無視の病巣として、教科書などでもよくみる一般的に重要視されている部位としては、側頭-頭頂接合部(下頭頂小葉)付近が責任病巣だとされています。

しかし、その病巣部位はネットワークの障害というだけあって、単一部位の問題ではなく、前頭葉、後頭・側頭葉を含む後大脳動脈領域、視床、内包後脚などの様々な領域が知られています。

その中でもMesulamが提唱したのは、頭頂葉、前頭葉、帯状回と皮質下の視床、線条体、上丘、そしてそれらの基盤となる網様体賦活系などからなる空間性注意ネットワークの重要性になります。

参考 空間性注意ネットワークPubMed
空間性注意ネットワークに関わる領域
  1. 頭頂葉後部:身体感覚と視空間認知を統合し、体の中の自分といった自己身体の表象地図形成に関わる
  2. 帯状回:発動性の制御や動機づけを行う
  3. 前頭眼野:探索的な眼球運動の制御を行う
  4. 網様体賦活系、視床など:覚醒レベルの制御に関わる

これらネットワークがそれぞれの機能を有しながら、注意を選択的に向けたり、切り替えたりを担っており、どれか1つでも損傷や障害を受けると、空間性注意機能として全体が障害されるということになります。

これをみる限り、注意というものの根底には意識などに関わる脳幹の機能や、発動性などに関わる間脳の機能、そして、頭頂葉や前頭葉などの大脳皮質の領域など、様々な部分の影響が考えられてきます。

つまり、どこの障害によって起こっている注意の問題なのかは、臨床場面では捉える必要がありそうだね!

リハアイデア

では、この空間性注意ネットワークを臨床場面で考えた場合、どう治療に活かしていけば良いのでしょうか?

カスミ

確かに、そこが一番悩むところですね~。

まず注目してほしいのが、一番下にある網様体賦活系という部分です。

網様体賦活系とは、意識や覚醒に関わる部分で、ここがまずは注意というものの根幹になります。

カスミ

確かに、意識がぼーとしてたり、起きてるのか起きていないのかわからないときって全然注意の機能が働かないですもんね。
あの意味のないリハ科で行われる会議中の僕みたいな感じかな?笑

リハアイデア

なので、まずは注意喚起を促すには、覚醒しているというのが条件になってきます。

特に脳卒中発症早期なんかでは、まだ意識レベルがはっきりしないまま、リハビリに連れてこられたり、車いすに座らせて食事をとるということもあるため、まずはしっかり起こすということを考える必要があります。

そのためにも、早期離床ってすごく大事になってくるんだよね。臨床的にも長下肢装具なんかで立位練習をしている時と、普通に座位での机上練習をしている時ではあきらかに、半側空間無視があっても、立位場面の方が注意が向きやすいって印象があるもんな~!

リハアイデア

次に考えるのが帯状回という部分になります。

ここは、感情形成と処理、学習と記憶に関わりを持つ部位とされています。

そのため、左側を向くことに対する動機づけの段階で如何に感情を組み込められるか(刺激が不快な刺激であれば、それを学習や記憶し、左側を向くことをさらに脳が拒否する場面もでてきます)が臨床場面では重要になってきます。

以前にも紹介しましたが、脳卒中当事者の話では、左側からの声掛けが不快に感じるといった場合もでてきます。

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ここは家族さんや病棟で関わるスタッフに関しても、同じような目的意識をもった関りを促すことが非常に重要になってくる部分になります。

そして、頭頂葉や前頭眼野などの大脳皮質に関しては、より意識づけをした中での行動への誘導が必要になってきます。

それには、感覚情報に関わり意識づけを行う視床の機能視覚情報に関わり眼球を動かす上丘運動発動や運動の記憶・順序性に関わる基底核の機能である線条体(尾状核と被殻)、などへの入力刺激をどう注意という要素に結び付けられるかが臨床上でのポイントになってきます。

まとめてして、それぞれの脳部位に必要な機能と、リハビリ場面で用いる一例を載せておきますのでご参考に(あとは皆さんで是非アレンジしてみてくださいね)!

リハアイデア

臨床的に考える空間性注意ネットワークの機能
  1. 網様体賦活系:立位などの脳の覚醒が起きやすい状態を作った上での注意喚起(長下肢を用いた立位やティルトでのギャッジアップ)
  2. 帯状回:運動誘発に関する感情などの情動面を考慮した動機づけを伴う注意喚起(食事や家族の声掛けなどの外的刺激)
  3. 頭頂葉・前頭眼野:意識下での運動の自発性(目的を伴った探索活動など)
  4. 視床・上丘・線条体:大脳皮質を使うための情報入力や運動スイッチ(意識にのぼりやすい感覚入力や今までに慣れた運動や行動を促す)

このような臨床的な要素を考える際に、最近すごく参考にしている書籍はこちら!

半側空間無視のメカニズム②:方向性注意障害とは

ここで疑問になるのが、何故半側空間無視は左側に多く出現するのかという点です。

カスミ

確かに、右側の半側空間無視ってあまり聞かないイメージがあります。
ここでは、方向性注意障害ということで、何故半側空間無視が左側に出現しやすいかということを考えてみよう。

リハアイデア

脳には左脳・右脳といって、左右の脳それぞれに特異的な機能分化をもっており、注意に関しても上記ネットワークが実は左右半球で機能差があるとされています(Kinsbourne の説、1970)。

MEMO
  • 左脳:主に右空間を監視している
  • 右脳:左右空間を監視している

右半球では左右どちらの空間にも注意が向けられるが、左半球では右空間にしか注意が向けられない

そのため、右半球が損傷を受けると、残存した左半球が右空間にしか注意を向けられず、結果として半側空間無視は左側(右半球)で生じやすくなります

これがよく言われている半側空間無視における左側が症状としてみられやすい原因の一つになるんだね。

リハアイデア

カスミ

一つってことは他にも原因が考えられるのですか?

その他、注意配分という視点においては、左側空間は左右の脳どちらからも注意配分が可能だが、右側空間は左脳のみ優位に注意配分が行われており、その割合も強いといわれています。

ここで、もう一つ、何故半側空間無視が左側に多いかということを考えていきたいのですが、それには、脳には左右の半球間を脳梁を介して抑制しあう半球間抑制という機能が注意配分に非常に大きく関わってきます。

半球間抑制とは
片方の大脳が活性化すると、左右脳をつなぐ脳梁を介して反対の大脳では、神経細胞の活動が抑制される現象。

簡単にまとめると、左右脳がそれぞれバランスを取りながら、どちらかが頑張ればどちらかが休むといった活動を無意識に脳の中で起こしているということになります。

これら注意配分と半球間抑制という機能を考えていくと、下図ように半側空間無視を説明することができます。

片側の大脳半球が損傷されて機能低下すると、対側大脳への抑制が外れ、対側半球の過活動が生じやすい状態を呈します。

注意
右半球の損傷により、右半球からの抑制が効かず、結果左半球の脳の過活動が起こる(逆も同様)。

合わせて、非損傷側の大脳半球の過活動により、損傷側への抑制がさらに強まることで、損傷側の大脳の働きをさらに弱めてしまうと考えられています。

注意
右半球に損傷による左半球の過活動が、右半球への抑制強化に働き、結果的に右半球の機能がもっと低下してしまう(逆も同様)。

先程の注意配分でも説明したように、右側空間に対する左脳の活動は右脳に比べ強いことが言われています。

そのため、脳卒中患者さんでは右側半球に損傷が出ると、左方向への注意配分が弱くなり、残存している左脳による右側空間への過剰な注意配分が強くなり、左側へ注意を切り替えることがより難しくなるということがわかります。

臨床場面を考えてみても、半側空間無視を呈する脳卒中患者さんは左の空間を無視するだけでなく、すごく右側空間に固執するようなケースがいるような印象があります。

それには、このような左右脳の特性も関係している可能性が考えられるね。

リハアイデア

カスミ

だから右半側空間無視の方って臨床ではあまり見なくて、左側が多いんですね!

以上のことから方向性注意障害についてまとめてみると・・・

半側空間無視を呈する脳卒中患者さんの脳の中
  1. 損傷側である脳から非損傷側への抑制がかからない
  2. 損傷側の脳への抑制が強まる
  3. その結果、一側への過剰な注意過多が起こる
  4. より半側を無視するという病態がさらに強く生じる

ということが考えられています。

このように半側空間無視で左側を無視するということが、脳の中でも皮質間の問題だけでなく、半球間での関係性から症状が生じるということも臨床上では考えられているので、どういったことが原因で半側空間無視が生じているかは、そのメカニズムをある程度把握しておく必要があります。

半側空間無視の理解に関する近年の動向!

これら2つの注意障害から、半側空間無視の病態は説明されてきたのですが、近年では実は患者さんによっては、ある程度刺激や情報を操作することで、左側への注意喚起が可能になってきているという報告が多数されています。

では、脳卒中患者さんにおける半側空間無視の根本の問題点はどういったところにあるのか。

それには注意というもの自体をもう少し大きい視点からみていく必要があるのです。

能動的注意と受動的注意について

一般的に注意ということを日常生活場面で想像してみると、注意を向けるという自分主体の行動と、注意が向くといった外からの刺激によって起こる行動の2つのパターンがあります。

こういった注意のコントロールのうち前者を能動的注意、後者を受動的注意として分類しています。

注意のコントロール
  • 能動的注意:自分が意識的に注意を向ける状態。自分主体。
  • 受動的注意:外部からの刺激によって注意が向いてします状態。外部主体。

脳卒中患者さんの臨床場面を想像してみてほしいのですが、食事場面での訓練や机上検査などで左側に注意を向けさせること自体は、能動的注意をみたり、そこに対するアプローチになります。

しかし、日常生活場面で大事になってくるのが、車いす駆動中に左側にぶつからないとか、話しかけられた際に左側に振り向くといった行為自体が受動的注意をみているということになるのです。

そして、半側空間無視を呈している場合に、問題となりやすく、症状が残ってしまいやすいのが(ここでは重症度や回復時期にもより、必ずしも断定はできませんが)、受動的注意による左側の空間無視になるのです。

カスミ

注意のコントロールでも自分主体か、相手(外部)主体かで全然違うんですね。じゃあ、何故このように能動的・受動的注意によって患者さんの反応に変化がでるのですか?
おっ、大事な部分に気がついたね。これら違いを臨床場面ではしっかり見極めて、それぞれに対してアプローチや介入する方法を選択する必要があるんだよ。

リハアイデア

では、この能動的注意と受動的注意の違いについてもう少し整理していきましょう。

これら2つの注意の違いにおいて重要なのが、先ほどから説明している半側空間無視の根源でもある注意ネットワークに問題が生じるということになります。

結論から伝えると、受動的注意と能動的注意では、これら2つの脳内でのネットワークが全く違うということなのです。

ネットワークが違うということは、それぞれ入ってきた情報に対して、脳の中で処理する過程(経路)が異なり、それを処理する場所自体も異なるということなのです。

つまり、その際の脳の中を可視化してみることができれば、今現在どういった刺激に対して脳のどこを使っているかがわかり、それに対してどういった刺激を入れれば良いのかという治療の中でのバリエーションがでてくるのです。

わかりやすく例えると、関西圏の方ならイメージしやすいのが行きたい目的地に対して、JR線を使って移動しているか、阪急線を使って移動しているかの違いになります。

使う駅が違えば、それをつなぐ線路(〇〇線といった)も違うといったイメージですね。

では、それぞれがどのようなネットワークで起こっているかということなのですが、主に2つの注意ネットワークが関わってきます。

半側空間無視に関わる能動的注意~背側注意ネットワーク~とは

その一つが能動的注意に関わる背側注意ネットワークになります。

背側ネットワークとは、上頭頂小葉、前頭眼野、下前頭回などを通る経路で構成されているネットワークになります(詳しくは下図の右参照)。

背側注意ネットワークに関わる領域
  • V3A:視覚野
  • MT:視覚野側頭葉内側と頭頂葉の境界
  • AG:角回
  • IPS-SPL:頭頂間溝-上頭頂小葉
  • FEF:前頭眼運動野
  • IFJ:下前頭回

そして、この背側注意ネットワークによる能動的注意には反対側視野に自ら意識を向け探索する能動的・目的・指向型注意機能を担っており、トップダウン的な注意とも言われています。

もう少し簡単に説明すると、例えばパソコンの画面に向かって意識的に文字をみたり、画像をみたり、主体的に注意をそこに向けている状態のことを指します(下図の左参照)。

半側空間無視に関わる受動的注意~腹側注意ネットワーク~とは

それに対して腹側注意ネットワークとは、下頭頂小葉、中・下前頭回、島皮質などを通る経路で構成されるネットワークになります(下図の右参照)。

腹側注意ネットワークに関わる領域
  • SMG:縁上回
  • STG:上側頭回
  • IFJ:下前頭接合部
  • IFG:下前頭回
  • Ins:島皮質

この腹側注意ネットワークによる受動的注意には、自らを取り巻く環境刺激から空間に対する注意を受動的・刺激駆動型注意機能を担っており、たくさんの情報の中から際立った感覚情報に注意を再定位する働きとされており、ボトムアップ的な注意とも言われます。

こちらも簡単にすると、何かに注意を向けていたが、急に人が通ったことで、自然とそちらを振り向くような注意が切り替わった状態のことを指します(下図の左参照)。

2つのネットワークによる半側空間無視の障害像とは!?

近年の半側空間無視における左側の無視に関する見解としては、上記した背側注意ネットワーク腹側ネットワークが大きく関与してきます。

通常(健常者)は、背側注意ネットワークが左右間に存在し、それらが半球間で抑制しあっていることで、左右空間に対しての能動的な注意配分がされています。

つまり、どちらの空間に対しても意識的に注意を向けたり、切り替えることができるということです。

それに対して腹側注意ネットワークは、右半球優位に活動を示すことで、受動的な注意に関与しています。

これは、どちらの空間が優位というわけではなく、外的刺激に対して受動的に注意を切り替えたりすることができる機能になります。

これら2つのネットワークにより注意といっても、意識的に注意を向けたり、切り替えることが自然と行えるようになっているのです。

しかし、脳障害などで右半球障害(特に頭頂葉付近での)が生じることで、受動的注意に関わる腹側注意ネットワークの機能が低下します。

そうすると、同側(右側)の背側注意ネットワークに関しても、神経連絡があるため、こちらも機能低下を同時に引き起こしてしまいます。

方向性注意の部分でも記載したように、脳は左右間でお互いが抑制関係に脳をコントロールしている半球間抑制という機能を有しています。

その影響により左背側注意ネットワークが過活動を起こし、結果的に左側への注意が減少し、右側への能動的な注意配分が強くなることで右側をよく見てしまいます。

そして、左側へ受動的に注意が向きにくいといった症状が現れ、左半側空間の無視症状が臨床場面でも優位に出現しやすいということになります。

以上をまとめると、

左半側空間無視が出現する機序
  1. 右腹側注意ネットワークの障害(受動的に注意が切り替えられない)
  2. 右背側注意ネットワークの障害(左側空間に能動的に注意が向けられない)
  3. 左右半球間の不均衡
  4. 左背側注意ネットワークの過活動
  5. 右空間に注意が固執する

といった病態が、半側空間無視では起こるとされています。

そのため、半側空間無視という病態をみた際には、なぜ左側に出現しやすいのか、そして、その注意配分は能動的要素か受動的要素のどちらが障害を呈しているのかを把握する必要があります。

それには、これら脳内で起こるネットワークを理解することがとても重要になってくるのです。

半側空間無視に関する知見は、近年でもかなり病態なども含めより明確な解釈ができてきているようになっています。

理学療法関連においてもPTジャーナルで特集が組まれるほどです。

これは、PTジャーナルが発行されて初めて『半側空間無視』だけで特集が組まれるほど、理学療法領域においても高次脳機能障害に対するアプローチの幅を広げる必要があることが伺えます。

ほんと、これ一冊読めば最新の半側空間無視に関する知識は十分理解できるものになっています。

リハアイデア

半側空間無視に対する評価方法とは?

これまでの説明の中で半側空間無視の病態が少しは理解が深まったと思います。

そして、実際にはみる症例においてこの半側空間無視の症状がどこまで出現しているかを把握する必要があります。

ここでは実際に半側空間無視に用いる評価バッテリーについてまとめていきたいと思います。

半側空間無視における評価方法としては、BIT(Behavioural Inattention Test)行動性無視検査を用いて評価をするのが一般的だと思います。

この検査方法は6種類からの検査で構成され、検査時間に要する時間は45分程度かかります。

BIT(Behavioural Inattention Test)とは?

BITはWilson(イギリス)らによって開発され、半側空間無視の検査方法として欧米で広く用いられている検査方法になります。

日本ではこちらの検査を日本人向けに修正を加え、標準化されたBITの日本版が1999年に作成され、活用されています。

BITの特徴としては、従来の検査方法を集めた6項目の「通常検査」と日常生活場面を想定した9項目からなる「行動検査」の2つにより構成されているのが特徴です。

これらの検査により、机上での検査データから、日常場面での問題提起にもつながる検査になり、半側空間無視の病態理解や予後予測、訓練課題の選択にも役立ちます。

通常検査

通常検査
  1. 線分抹消試験
  2. 文字抹消試験
  3. 星印抹消試験
  4. 模写試験
  5. 線分二等分試験
  6. 描画試験

行動検査

行動検査
  1. 写真課題
  2. 電話課題
  3. メニュー課題
  4. 音読課題
  5. 時計課題
  6. 硬貨課題
  7. 書写課題
  8. 地図課題
  9. トランプ課題

半側空間無視に対して明日からのリハビリで考えること!

半側空間無視に対するリハビリ場面で、これら注意ネットワークにおける経路の中で、どこの損傷が大きく、どの経路を使って注意を向けているかを臨床場面では常に考えながら評価やアプローチをすることが必要になってくるのです。

そういった意味でも、半側空間無視とは『ただ単に左側を無視する』といった現象だけで捉えるだけでは、中々臨床場面で変化を出すことができません。

その根源にある、症状自体がどのような脳内の情報処理の中で起こっているのかを把握しながら、どうやったら注意が向くのかという残存したネットワークを使いながら注意喚起が促せるかを、常に考えながらリハビリテーションを展開していく必要があるのです。

次回は、半側空間無視に対する病巣について脳画像を絡めてまとめてみたいと思います。

リハアイデア

病巣に関する脳画像についてはこちら!

半側空間無視が出現する脳障害部位とは!?責任病巣は頭頂葉だけではなかった!

それでは、また~!

半側空間無視に関するおすすめ書籍はこちら!

脳画像や脳機能に関してはPT領域では有名な阿部先生の書籍。
最新知見はもちろんのこと、半側空間無視だけでなく、高次脳機能障害に対する理学療法を実践するには是非一読したい書籍!

脳機能の勉強は正直これ一冊で十分。
半側空間無視に関しても、メカニズムから評価方法まで網羅されていて大変読みやすい書籍!

PTジャーナルの半側空間無視の号を編集した網本先生の書籍!
半側空間無視だけでなく、それによるpusherについてもまとめられているオススメ書籍。

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